映画『博士と彼女のセオリー』感想、新たなラブストーリーの傑作ここに。ALSを患っていなかった元気な過去に戻れなくても未来の一瞬に光り輝く希望があった。[ネタバレ解説あり]
3月13日公開の『博士と彼女のセオリー』を一足お先に鑑賞してまいりました。現在も健在の物理学者スティーヴン・ホーキングの人生と愛の物語に感銘を受けました。
□一言感想
ちょっと長いですがまずは感想というか語りを。ALS(筋萎縮性側索硬化症)という言葉、少し前にアイスバケツチャレンジブームがありましたが、あの時の主題となった病気であります。その病気を患った物理学者スティーブン・ホーキング博士の人生を描いたのが本作です。
物語への言及は後にして、本作にはとても感銘を受けたということを明確に宣言しておきたいです。「感銘」なんです。いや、「感動」もしました。一連の物語に。しかし最後の「時間は戻らないけれど…」な結末に感心、感銘です。
そのラストを目撃した瞬間、自分の28年生きてきた人生を振り返り、これからを考えました。
決してネガティブにではなく、しかしこのままでもいいと思わず。このような一瞬を私自身将来迎えたい。そしてスティーブン・ホーキングでも失敗した結婚生活というもの、模索しなければならない。そう様々未来に関して考えながらエンドロールを見ていました。
『ビューティフル・マインド』という映画と本作はよく比較されます。心の病気を描いていた『ビューティフル・マインド』、身体の病気を描いた『博士と彼女のセオリー』。どちらも天才教授の波瀾万丈の人生を描いています。
優劣つけ難いほどどちらも私にとては傑作でありました。そしてどちらとも共通するのが天才そのものを描いているのではなくその天才の愛の物語を描いている点です。つまりどっちも伝記映画の見かけをしたラブストーリーというわけです。
そのラブストーリーはどちらも決して単純明快なものではなく、天才故にうまくいかなかったり、病気故にうまくいかなかったりするのです。事実なので言ってしまえばどちらも奥さんは一度彼らの元から去っています。(ビューティフル・マインドではそこは省略というか脚色されていますが)
天才でもうまくいかない人生。しかし苦悩や失敗のその先、出口に彼らは答えは違えど「幸せ」を見いだせています。実際の心はわかりませんが少なくても映画的にはそうです。
『博士と彼女のセオリー』のクライマックスは『ビューティフル・マインド』と似てるようで全く異なる意味を持ちます。特にエンドロール直前のあの展開というか編集はがありますので。その意味を考え、最後の展開を考え、こう思いました。
スティーブン・ホーキングが提唱するように過去には戻れないかもしれない。しかし過去の遺産が未来で光り輝いたらきっとその瞬間は極上の幸せを感じるかもしれない。そのために今日も、明日も、明後日も、できるだけ先へ、未来へ、生命の灯火を消さずに生きたい。
生きる力と愛、未来への希望と絶望、様々な勇気をこの映画から貰うことができました。
□どんな話?
物理学の天才として将来を期待される青年スティーブン・ホーキングは、ケンブリッジ大学在学中、詩を学ぶ女性ジェーンと出会い、恋に落ちる。しかし、直後にスティーブンはALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症。余命2年の宣告を受けてしまう。それでもジェーンはスティーブンと共に生きることを決め、2人は力を合わせて難病に立ち向かっていく。
映画.comより
□スティーブン・ホーキングとALSについて
現在もご健在のスティーブン・ホーキング博士ですが、彼について映画の展開を交えて少し整理していきたいと思います。◯スティーブン・ホーキング博士とは?
「車椅子の天才」と呼ばれる英国の理論物理学者。1942年1月8日生まれ。
ちなみにオックスフォード生まれだが、現在はケンブリッジ大学ルーカス記念講座教授。
数学をやりたかったが、オックスフォード大学のユニバーシティ・カレッジに入ったら数学課程がなかったので、代わりに物理学をやることに。つまり数学界の代わりに物理学界が一人の天才を手に入れた勘定になる。
オックスフォード卒業後、宇宙論を専攻するためにケンブリッジへ移り、ここで博士号を取得。その後、フェロー(給費研究生)として研究を続け、さらに1980年からはルーカス数学講座教授に就任、現在もその職にある。
ケンブリッジ在学中に難病のALS(筋萎縮症性側索硬化症)であることが判明する。1985年に肺炎を患った後は完全介護が必要となったが、テクノロジーの助けを借りて研究と講演を続けている。
参照:http://goo.gl/jptEM6
◯宇宙関連で様々な功績を残している、キップ・ソーンは同僚
スティーブン・ホーキングと言えば「ブラックホールの特異点定理」、「ホーキング放射 」などが有名ですね。私超文系なので詳細まで説明ができない無能っぷりでございますが…。
文系でもわかるように言うなら
「タイムトラベルして過去へ戻ることはできない」という説とかスティーブン・ホーキングの説ですね。「時間順序保護仮説」と言われてますね。
ここで映画好きの方なら「おや?」となるでしょう。そう、『インターステラー』の慣習もした理論物理学者キップ・ソーンとの関係ですね。何と本作『博士と彼女のセオリー』にはキップ・ソーンが登場します!この辺も面白いですよ。
◯スティーブン・ホーキング波瀾万丈の年表
1942年1月8日:イギリス、オックスフォードに生まれる
1959年:オックスフォード大学入学
1962年:オックスフォード大学卒業
1962年:ケンブリッジ大学大学院、応用数学・理論物理学科入学
1963年:ALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断、余命2年との宣告。
1965年:ジェーン・ワイルドと結婚
1965年:ペンローズと共同で「特異点定理」発表
1966年:ケンブリッジ大学トリニティー校で学位取得
1967年:「特異点と時空の幾何学」でアダムズ賞受賞
1967年:長男誕生
1970年:長女誕生
1974年:「ブラックホールの蒸発理論」発表
1977年:ケンブリッジ大学の教授職取得
1979年:ケンブリッジ大学、ルーカス教授職に就任
1979年:次男誕生
1983年:ジェームズ・ハートルと共同で「無境界仮説」発表
1988年:『ホーキング、宇宙を語る』出版
1991年:「時間順序保護仮説」を提唱
1991年:ジェーン・ワイルドと離婚
1995年:看護師のエレイン・メイソンと再婚
2007年:アメリカ"G-フォースワン"に搭乗し、車いすから離れ無重力を体験
2009年:ケンブリッジ大学を退任
2009年:大統領自由勲章叙勲
2011年:エレイン・メイソンと離婚
◯ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは?
他媒体の自筆文を元に箇条書きでまとめてみます。
・ALS=Amyotrophic Lateral Sclerosis=筋萎縮性側索硬化症
・筋萎縮性側索硬化症とは手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉が動かなくなっていく病気
・筋肉の病気ではなく神経が障害をうけ筋肉がやせていく
・感覚や知能、視力や聴力、内臓機能などは保たれることが普通
・国内で約9,000人がこの病気を患っている
・男性患者がやや多い
・最もかかりやすいのは60~70歳代
・発症原因は不明
・遺伝はしない
・進行を遅らせるリルゾールという薬がある
・治療には毎日のリハビリテーションが大切
・病気に対する不安から起こる不眠には睡眠薬や安定剤を使用する
・のみ込みにくさがある場合には食事制限が入る
・悪化してのみ込みができなくなった場合には胃に管を通したり、鼻から食道を経て胃に
・管をいれて流動食を補給したりしなければならない
・話せなくなる恐れがあるため、家族と言葉以外でのコミュニケーションを手段を構築すると良い
・一度病気にかかると症状が軽くなることはほとんどない
・人工呼吸器を使わない場合病気になってから約2~5年で死に至る
・十数年生きれる事例もある
呼吸器不全で数年で死亡してしまうケースがほとんどのようですので、スティーブン・ホーキング博士は奇跡と言っても過言ではありませんね。まだまだ明確な治療法が確立されていない病気なのです。
□多分にある見どころ、演技、映像、音楽etc...
冒頭に書いたように結末の映像が示すものが全てであり、それに感銘を受けるわけでありますが、本作はもう多分に見どころといいますか魅力がある映画に仕上がっています。
◯エディ・レッドメインの演技
『レ・ミゼラブル』をご覧になられた方ならご存知であろうエディ・レッドメイン。今回スティーブン・ホーキング博士の役を全て演じています。
ALSを患う前の葛藤や苦悩、患った後のどう演技してるのかわからない大熱演。魂の演技に痺れます。ALSになると当然感情表現ができなくなるわけですね。感情表現できない感情を演技で見せる。これとんでもないことです。
当然の如くアカデミー賞ノミネートまでは堅いです。この魂の演技、必見であります。
◯フェリシティ・ジョーンズの演技
妻として長年スティーブン・ホーキングを支えたジェーン・ワイルドを演じたのはフェリシティ・ジョーンズ。この静かで力強い演技が胸を打ちます。
この映画、実はジェーン・ワイルドの著作『Travelling to Infinity: My Life with Stephen by Jane Wilde Hawking』が原作となっているんです。
なので飾りとしての妻ではなくジェーン・ワイルドの葛藤もしっかりと描かれています。事実として二人は離婚してますのでその辺割と容赦ないです。
フェリシティ・ジョーンズはその複雑な心情を見事に演技で示しています。病気の旦那を支えたくてもやはり身は女なわけで心が揺れ動いてしまうことが…史実であり、映画の最後のテロップがその苦悩故の結末も表しています。
見事な演技でした。
◯幻想的な映像
『ビューティフル・マインド』と比べられることが多い本作。どちらも傑作なので比べて問題はないと思いますが、明確に異なるのが映像美。
『ビューティフル・マインド』はかなり落ち着いた色彩の映画ですが、『博士と彼女のセオリー』はとにかく幻想的。俗に言う映像美が堪能できます。
あまりに美しいので否定的な意見もあるようですが、ラストまで言ってこの映像テイストは正しいと私は思いました。このテイストがラストのあの場面と振り返りのあれをより浮かび上がらせてくれるのです。
愛の物語ではありますが重みもある作品であります。しかしこの映像美が映画を絶妙なバランスへと昇華させ、「もう一度見たい」と思わせてくれるのです。
◯ピアノの光る音楽
『ビューティフル・マインド』もそうでしたが「学者とピアノ」って何かマッチするんですよね。本作も美しいピアノの旋律が心に染みこんできます。音楽担当はヨハン・ヨハンソン。『プリズナーズ』の音楽担当をしていますが、まだまだ有名ではない方ですね。
アレクサンドル・デプラ作曲の『英国王のスピーチ』をより幻想的にしたようなメロディーが胸を打ち、映画を傑作へと引き上げています。
映画鑑賞を終えた後に聴くとあの愛の物語を思い出し、心が締め付けられながらも未来を見据えたくなります。
□あなたの人生を、あなたの愛を、あなたの映画体験を
映画の傑作の定義、私は完成度やバランスだけではないと思います。どんな作品でも、心に響き自らの人生と繋がるとその映画はかけがえの無い映画となるのです。私は健康的な人間ですし、天才とはかけ離れた人間です。スティーブン・ホーキングと比べるのは失礼な人間です。
しかしそのかけ離れた人間の物語が心に入ってきました。私の人生や愛について様々考えさせてくれる、勇気を与えてくれる作品であったのです。
映画体験としても映像美や音楽、熱演によって圧倒されかけがえの無い時間となりました。
『ビューティフル・マインド』がそうであったように、この映画も時を刻む中で何度も鑑賞して、その時々で人生について考える大切な作品となっていくと思います。
この映画がみなさんの心に響くかはわかりませんが、そんな作品と出会えた喜びをここに記して今回のレビューはおしまいとしたいと思います。
おしまい。
□関連作品
◯原作
Jane Hawking
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Travelling to Infinity: The True Story Behind the Theory of Everything
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◯サウンドトラック
Johann Johannsson
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◯『ビューティフル・マインド』
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◯スティーブン・ホーキング書物
スティーヴン・W. ホーキング
早川書房
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スティーヴン ホーキング レナード ムロディナウ
エクスナレッジ
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スティーヴン・ホーキング
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スティーブン・W. ホーキング
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スティーブン・W. ホーキング
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