『グレート・ビューティー 追憶のローマ』感想、ローマの極上の美しさに息を呑み、一人の男の心の傷に人生を重ね物思いに耽る…[ネタバレなし]
第86回アカデミー賞外国語映画賞受賞作『グレート・ビューティー 追憶のローマ』、一足お先に鑑賞させて頂きました。一般公開は2014年8月の予定です。
□私的満足度
★★★★★=星5=お見事!これは傑作です!【評価の参考値】
★★★★★+・・・満点以上の個人的超傑作!
★★★★★・・・・お見事!これは傑作です!
★★★★・・・・・素晴らしい作品でした!
★★★・・・・・・普通に楽しめました。←平均評価
★★・・・・・・・ん〜イマイチ乗れませんでした。
★・・・・・・・・ダメなもんはダメ!クソ!
※通知表のような5段階評価で、個人的にツボった作品は例外で5+にしています。
ちなみに私は映画は楽しむ&褒めるスタンスなので評価相当甘いです。
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□『グレート・ビューティー 追憶のローマ』基本情報
タイトル=グレート・ビューティー 追憶のローマ
原題
=The Great Beauty
監督
=パオロ・ソレンティーノ
キャスト
=トニ・セルビッロ
=カルロ・ベルドーネ
=サブリナ・フェリッリ
=カルロ・ブチロッソ
=イアイア・フォルテ
ローマでは毎夜、テレビスターやアーティスト、モデル、プロデューサーなどのセレブが集まりパーティが繰り広げられている。65歳の作家でジャーナリストのジェップ・ガンバルデッラは、そんなセレブコミュニティの有名人だが、連日の狂騒に嫌気を感じつつあった。そしてある日、初恋相手だった女性の訃報を聞き、心に大きな穴があいたような虚無感にとらわれたジェップは、人生の価値を求めてローマの街をさまよう。
予告編
□アカデミー賞外国語映画賞受賞は納得の珠玉の傑作!
まず率直にお伝えしますと「万人受けはしない」作品でしょう。この後絶賛レビューを書きますが「好きな人は好きだし、響く人は響くし、受け付けない人は受け付けないし、嫌いな人は嫌い」な作品だと思います。『グレート・ビューティー 追憶のローマ』、フェデリコ・フェリーニ監督の『甘い生活』『フェリーニのローマ』、そして『8 1/2』までも彷彿とさせるフェリー二愛、イタリア愛、映画愛に溢れた作品です。
[DVD発売済み]
この映画はとても掴みにくい作品です。なぜなら着地点が見えないからです。凄く簡単な例えで言うと、「サスペンス映画なら最後に犯人や真相がわかる着地点がある」ということ。この映画は映画を見てても着地点が何かわからないのです。ストーリーも主人公のジェップを追ってると思ったら美しさの話になったり、ダンスのシーン連発したり、脱線したりします。着地点不明…。
しかし!その掴みにくさが良いんです。
なぜなら、その脱線も映画的魅力、ローマ的魅力に溢れているからです。
また、重ね合わされるエピソードは次第に映画的魅力とは別に、私たち個々人の人生がそれで良いのかという自問自答をさせ始めます。初老のジェップの人生を映画を通して見ていきながら、私自身、今の生き方や選択は本当にこれで良いのかと物思いに耽ってしまいました。良い意味で映画に余白があるのでそういう自分と向き合う機会をこの映画は与えてくれるのです。
映画は線を走るわかりやすいストーリーではありませんが、様々なエピソードが極上の映像という美と共に進むため退屈しません。その包み込む美という魅力は映画のタイトル"グレートビューティー"に相応しい映画的魅力とも言えるでしょう。
その総合的な魅力は、ツボったら最後。もう意味わからないけど何から何まで美しくて最高!という感想で大絶賛したくなるのです。
□現代イタリアだからこそ描けた"現代イタリアの夜の魅惑"とその闇
フェデリコ・フェリーニの名前を出すとちょっと取っ付きにくいといいますか、ある程度映画通じゃないと全く楽しめないのではないかという不安も抱くでしょう。そんなことありません。映画のオープニング、日本人観光客の荘厳なショートエピソードの後、ぶっ飛びまくりのディスコシーンが始まります。わかりやすく言うなら『華麗なるギャツビー』のパーティーシーン。ナイトパーティーでディスコナンバーをかけてはっちゃけまくりのどんちゃん騒ぎです。これが10分弱もあるのです。
冒頭から娯楽的要素をも含み、思わず足でリズムを取りたくなります。パーティーシーンは映画内で何度も出てきて映画の緩急付けにも貢献していますが、この冒頭の音楽を2つ紹介しておきましょう。
Youtubeペタリ
Far I'amore
Mueve la colita
この2曲がテンションを上げてくれます。当然ですが古き良きイタリア映画では現代テイストのディスコシーンなど描かれません。"現代イタリアの夜の魅惑"を描けるのは現代だからこそというのがあります。これを懐古的に「うっとおしい」と思うか、新鮮に「楽しい、心地良い」と思うか。これどっちに感じでも後で価値あるものになります。
それはなぜか?
主人公のジェップらが楽しむこのナイトパーティー、映画が後半にいくにつれそれが空虚の賜物であることわかってきます。上辺だけの楽しみ、みんなでどんちゃん騒ぎして楽しんでるのが本当の幸せなのか?美なのか?それを主人公も観客も痛感し始めます。
言うならば、「日本で生活していて毎日夜の遊びに徹するのと、家族と笑顔で夕食を囲むのとどっちが幸せか」ということです。夜の仕事を否定してるのではありません。それは需要に応えた素晴らしい仕事です。しかし、それとほのぼのとした家族とを比べた時、多くの人は即答できないと思います。
主人公も観客も映画でそれを感じます。「初老で結婚もしないで華やかにローマで遊んで暮らしてきたけど、本当にこれで良かったのだろうか?本当にこんな人生望んでたのだろうか?」主人公ジェップはそれを感じます。私もそれを自問自答しました。
言うならばコンフォートゾーン。
自分が一番心地よいと思ってるものをイメージしてください。休みができたり時間ができたらとりあえずやってること、行ってるとこを想像して下さい。その行動、自信を持って人に自慢できる習慣ですか?
「とりあえず酒飲む」「とりあえず映画行く」「とりあえずネット」「とりあえずテレビ」「とりあえず寝る」、耳が痛いですね。私もそれらと代わりありませんので偉そうに言うつもりはありません。
映画のナイトパーティーシーンを心地良いと思うことはそれと似てるのです、あのパーティーシーン、私大好きです。でもそれって空虚の塊です。でもそのシーン、映画的魅力も含めて大好きなんです。「そんなものを好きと思ってしまう自分は何て空虚で悪趣味な人間なんだろう…」、映画をみながら私は終盤絶望しか感じませんでした。
しかし最後の最後、希望も描かれます。全てを否定するなんてことはなく、「空虚だけどそれも人間だよね。でも、それだけに固執しないで逃げてる過去のあることと向き合って、一歩踏み出してみないか?」直接語られなくても主人公ジェップのナレーションからそんな勇気をもらいました。
心に入ってきた映画=私にとって新たに大切な映画になったわけであります。今いる自分を全否定せず、けれど逃げてるものと向き合い、捨てるものは捨て、残された人生を少しでも良く生きていきたい、そんなことを思えました。
□描かれるのは美しいローマ、しかしローマは空虚の街でもある(ローマ旅行を思い出しながら)
私はローマに一度行ったことあります。この映画で描かれるローマは夜の魅惑的で大人な(要するにエロい)ローマを含めてローマを魅力的に描いています。言うならば観光映画の側面も持っています。主人公ジェップの家はコロッセオを望む高級マンションですし、ローマの美しさを余すことなく見せつけます。それは古代から続くローマの美しい歴史的街並みだけでなく、イタリア独特のオサレなファッションであったり、音楽であったり、様々です。
台詞ではローマが如何に空虚か語られますが、それはあくまでも映画的側面に思え、それらローマの空虚さを台詞で聴いたところで「ローマ行きたくねえわ・・・」と思う方はほとんどいないと思います。むしろエンドロール含めローマに行きたくなる方がほとんどではないでしょうか。
しかしですね・・・ローマね・・・結構アレですよ(笑)
行った人ならわかるはず、夜の薄暗さ…美しさのカケラもありません。ローマの中心駅テルミニ駅周りの夜の薄暗く治安の悪い様、テルミニ駅の地下はイタリアに行ったことが無い華やかなイタリアを考える方からしたら地獄絵図とも言えるでしょう(笑)
地下鉄にはスリがたくさん。パチもんのブランド品の路上売りもたくさん、料理も場所によっては「おま、それレトルトだろ」そのものだったりホント適当なんです(笑)それは悪いというのではなくイタリアの、ローマの本来の姿なのです。それは映像では描かれません。まあ東京のPV撮るのにホームレス写しませんからね。それと似てると思います。
しかしイタリアに堕落した側面があることは政治的混乱を見てれば一目瞭然でしょう。映画におけるローマへの皮肉な台詞の数々はそういう側面も示しており、ローマに行ったことある方ならよりそれら台詞を意識することと思います。
全体的には美しい国ですので観光で訪れるべき国の1つだと思います。その時は身の安全やスリには気をつけつつ暗の部分、映画でも示される空虚の部分も目撃してほしいなと思います。
□繰り返しかかるテーマ曲を元にローマへの思いを馳せる
ナイトパーティーの音楽が耳に残りがちですが、荘厳なテーマ曲もまた良いです。そこまで強い旋律ではありませんが、繰り返しかかるうちに記憶に刻まれていきます。100歳を超えるシスターのエピソードを思い出しながらこの曲を聴き直す。その心地よさたるや・・・映画を見終わってからそれに思いを馳せ、物思いに耽る。この至福と言ったら何なのでしょう・・・凄い映画であります。
□まとめ
さて、素晴らしい作品でしたので長々と語ってしまいました。本当に見事な作品でありました。ただし最初に申し上げた通り、「万人受けはしない」作品でしょう。「好きな人は好きだし、響く人は響くし、受け付けない人は受け付けないし、嫌いな人は嫌い」な作品だと思います。
是非「面白い、面白くない」や「わかる、わからない」という上辺の評価ではなく、映画が発信する我々への問いかけを受け取り、フェリーニや古き良きイタリア映画に思いを馳せてほしいです。
『グレート・ビューティー 追憶のローマ』、8月公開です!
written by shuhei