3月 2013 - Cinema A La Carte

泣かせようとしないからこそ感動する『君と歩く世界』【映画紹介/2013年公開作】[ネタバレなし]


君と歩く世界

基本情報
邦題
『君と歩く世界』

原題
"RUST AND BONE"

監督
ジャック・オディアール

出演
マリオン・コティヤール、マティアス・スーナールツ、アルマン・ヴェルデュール、セリーヌ・サレット

公式サイト
http://www.kimito-aruku-sekai.com/sub.html

ストーリー
南仏の観光施設でシャチの調教師をしているステファニー(マリオン・コティヤール)は、ショーの最中に事故に遭い、両脚の膝から下を失ってしまう。失意の彼女を支えたのは、不器用なシングルファーザーのアリ(マティアス・スーナールツ)だった。粗野だが哀れみの目を向けずフランクに接してくる彼と交流を重ねるうちに、ステファニーは次第に生きる希望を取り戻していく。(シネマトゥデイより)

予告編



感想(一気に語り下ろし)
マリオン・コティヤールの舞台挨拶&試写会にて一足お先に鑑賞してきました。
4月6日より公開の『君と歩く世界』のレビューになります。

あれこれ書きたいことたくさんあるわけですが、まず一言で簡潔に表現しましょう。
今年観た映画のベストと言える超傑作でございました。
余韻が凄まじい…公開日にまた観に行くのが待ち遠しくて仕方ないです。

物語を簡潔に説明しますと、
両足を失ったシャチ調教師の女性ステファニーとシングルファーザーのアリの
風変わりなラブストーリー、というのが一応の紹介になると思います。





日本だとマリオン・コティヤール単独主演のような宣伝をされていますが、ダブル主演です。
二つのエピソードが別々に描かれ、やがて交わり、クライマックスへと進んでいきます。
ラブストーリーとは書きましたが型に全くハマっていません。

両足を失う事故に遭い、失意のどん底に落ちたステファニー。
シングルファーザーで落ちぶれのアリ。
二人とも"いい人間"ではありません。

しかし、そんな二人は自然と交わり、生きる希望をお互いに見い出していきます。
その過程が何と言いますか…とてもリアルなのです。
人間の欲望を包み隠さず描いていきます。

隠す必要もないですかね、要するにセックスです。
両足を失ったステファニーは女性としての自信も無くします。
しかしそんなステファニーをアリはセックスに誘います。

これは恋人としてではないです。
完全なる遊び相手としてです。
しかしそれがステファニーの女性としての自信になり、生きる希望を再び見出すことになるのです。

その後心の繋がりをお互い求めるようになり恋人のようになるも、まあなかなかうまくいかず…
ステファニーの思いが切なく感じ、後半のアリのある行動に私は
"いやいや、それはいくらなんでもひどいだろ…"と思ったりもしました。

が、孤独な男はある事をきっかけに悟るのです。
自分は独りでは生きていけないと。
息子もいます、心を支えてくれる息子以外の誰かも必要なのです。

その悟った時、ステファニーはどう対応したか。
それは是非劇場で目撃して頂きたいです。




"生きる"ということや、ラブストーリー、親子の物語、
映画のストーリーは絶え間なく動いていきラストを迎えます。
語りすぎないラストがまた素晴らしかったです。

映画を見終わった時、私は涙は流しませんでした。
しかし、映画が終わり劇場を出て帰路につきながら、映画の余韻が私の中に広がっていたのです。
涙を流すとは違う、言葉で表せない感動が私を支配し、そして今もその余韻が続いています。

何か生きる勇気を映画から貰ったような気がしました。
絶望から這い上がって歩き出した彼らの姿、それは綺麗事では一切無く苦しみや痛みがそこにはありました。
しかし、それがあるからこそ生きていることを実感できるのかもしれません。

もちろん、苦しみや痛みだけでは辛すぎる人生。
そこに自らの勇気や人から受ける愛や優しさ、自然の魅力など、
そういった様々なものや感情があってこと"生きる"素晴らしさを実感できるんでしょうね。

そんなことをこの映画に改めて認識させられた次第です。





映画のタイトル、原題は"RUST AND BONE"です。
これは「錆びと骨」という意味。
ボクシング用語で、パンチを受けて歯で唇が切れた時の血の味のことみたいです。

ラブストーリーなのに?
と思うかもしれませんが、映画を見れば納得です。
それはボクシングの話だけでなく、人生という意味でも「錆びと骨」を描いていたなと思いました。

フランス映画ですが、ロマンティックやアーティスティックな演出などありません。
セックスシーンすら荒々しさを感じます。
しかしそれが"生きる"ということなんですよね。綺麗事だけではないのが人生。

当たり前だけれども忘れていたそのことを思い出させてくれました。


ジャック・オディアール監督の素晴らしい演出。
水や光の美しい映像表現から感じる生命力。
時に切なく、時に躍動的に鳴る音楽。

そしてマリオン・コティヤールを始めとしたキャストの素晴らしい演技。

感動させようとせず、ありのままを描いたからこそ感じた感動と余韻。


秀逸。


傑作です。





楽しみたかった…楽しめなかった…『オズ はじまりの戦い』orz【映画紹介/2013年公開作】[ネタバレなし]



基本情報
日本語タイトル
『オズ 始まりの戦い』

原題
"Oz: The Great and Powerful"

監督
サム・ライミ

出演
ジェームズ・フランコ、ミラ・クニス、ミシェル・ウィリアムズ、レイチェル・ワイズ

公式サイト
http://www.disney.co.jp/movies/oz-hajimari/home.html

ストーリー
傲慢ながらも、どこか憎めない奇術師のオズ(ジェームズ・フランコ)。ある日、気球に乗り込んだ彼は竜巻に遭遇し、カンザスから魔法の国オズへとたどり着く。そこは邪悪な魔女に支配されており、人々は予言書に記された魔法使いオズが国を救ってくれると信じていた。その魔法使いと同じ名前だったことから救世主だと思われたオズは、西の魔女セオドラ(ミラ・クニス)に引き合わされた東の魔女エヴァノラ(レイチェル・ワイズ)から、南の魔女グリンダ(ミシェル・ウィリアムズ)の退治を頼まれる。(シネマトゥデイより)

予告編




感想(一気に語り下ろし)
ネット見てる感じだと賛否真っ二つになっている本作w

単刀直入に言いますと、私は全く楽しめませんでした。
しかしそれは映画の出来云々によるものではなく完全に好みとスタンスの問題です。
よってこの映画、楽しめるに越したことはないです。
これから見る方は是非楽しんで観てください!w

私が楽しめなかった理由は『スパイダーマン』3部作嫌いからくるサム・ライミ監督アレルギーという気持ちの問題があるのですw
どうも好きになれないのです。ファンの方ごめんなさい。
食べ物の好き嫌いと同じで、嫌いだからと言って好きな人を否定してるわけではないので許してくださいw

さて、あれこれ楽しめなかった要素を書いてもつまらないので、
そんな中でも楽しめた要素をまとめたいと思います。


本作のオープニングから30分ほど、これは文句なしに面白かったです。
凝ったオープニングロールから気球で飛び立つシーン。
レトロな雰囲気が漂い、2013年の映画を見ている感じが全くしませんでした。
その画面から伝わってくる雰囲気が非常に心地よかったです。

そして気球で飛び立ち、そこからカラー映像へ。
この切替で一気にカラフルな世界へと観客を誘います。


そしてオズの王国へ着いてから出会う猿のフィンリーと陶器の少女がとても愛らしいです。

ちなみに陶器の少女の声を担当してるのはジョーイ・キングちゃん。
『ダークナイト・ライジング』で奈落から這い上がる"あの人"の子供時代を演じた彼女です。
『ラブ・アゲイン』などでも印象的な演技を見せている天才子役です。

この辺りの描写、当然CGてんこ盛りなわけですが、
陶器の少女は歩いたり跳ねたりする描写がいちいち可愛かったです。
そういったディテイルにこだわった感が出てるところ、非常に素敵でした。


と無難にまとめ始めましたがやっぱり全編楽しめなかったのでまとまりませんw

本作はファンタジー映画。
つまり作られた"世界観"に入り込めなければもうおしまいなわけです。
冒頭書いたように私、サム・ライミ監督アレルギーw

よって最初から楽しもうという姿勢で観てないのです。
よろしくないです、はいw
しかしディズニー好きですし楽しめるかなとも思ったのですよ。
でもやっぱりダメだったわけですよw


おそらくなんですが、この映画が序章の域を脱してないのが原因だと思うのです。
オズの序章的な部分である本作。続編製作も決定しています。
それ故に中途半端に映画が終わるのです。

数々製作されてきた序章映画には傑作から駄作まであります。
好き嫌いによるものもありますが、どちらへ転ぶかのポイントの1つが
"続きを観たい"と思えるかどうかだと思うのです。

「何か中途半端に終ったね」
だと印象よくないのです。言ってしまえば消化不良。

「この後どうなるんだろうね!」
だと好印象で続きが観たくなるわくわく感を抱けるのです。

『バットマン・ビギンズ』は1つのストーリーが完結して続きを期待させました。
『ホビット 思いがけない冒険』はストーリー終わらずとも続きを観たくて仕方なくさせました。
どちらもワクワク感を抱かせてくれたのです。

その点本作は中途半端感が私の中では先行してしまったのです。
それが映画を楽しめず、振り返っても特に何も感じなかった理由だと思います。

ただ、たくさん映画を観てきたのでこうも思います。
「思い入れがあるとどんな駄作でも楽しめる」と。
私はオズ関連の原作等一切読んだことがありません。

それら原作や過去作などを堪能してオズの世界に詳しくなった状態で観たらもしかしたら楽しめるかもしれません。
なので楽しめなかったと連呼してますが、楽しめなかっただけで最低の映画とは思ってません。

その点『ダイ・ハード ラスト・デイ』とは大違いなのですw
あれはダメなもんはダメですw



CGてんこ盛り感が溢れている映像は時に不愉快ながらも時に美しくうっとりできました。

ジェームズ・フランコは『猿の惑星』や『127時間』の方がやっぱ合ってます。
ミラ・クニスも『テッド』のコミカル演技の愛らしさが好きです。

とそこへは不満もありましたが、
レイチェル・ワイズとミシェル・ウィリアムズはとても良かったですね。
元から好きな女優さんだというのもありますがw

どうも楽しめず注意力散漫な状態で過ごしてしまった時間。
基本映画は何でも楽しむのですが今回はちょっと態度からしてよろしくなかったです。

反省も込めて原作を買ってこようと思いました。


『メッセンジャー』、戦死した兵士の遺族に訃報を伝える通告官の姿を中心に描いた映画を初めて見た。【映画紹介/2013年公開作】[ネタバレなし]



『メッセンジャー』基本情報

タイトル
=メッセンジャー

原題
=The Messenger

監督
=オーレン・ムーバーマン

出演
=ベン・フォスター
=ウディ・ハレルソン
=サマンサ・モートン

ストーリー
戦死した兵士の遺族に訃報を伝える通告官(メッセンジャー)を題材に描くヒューマンドラマ。イラク戦争で戦果を上げながらも負傷し、帰国した米軍兵士のウィルは、戦死した兵士の遺族へ訃報を伝えるメッセンジャーの任務に就くことになる。上官のトニー大尉とともに訃報を伝えていくウィルは、遺族たちの怒りや悲しみを目の当たりにし、苦悩する。そんな時、夫の戦死により未亡人となったオリビアと出会ったウィルは、失われた心を取り戻していく。一方、長い軍隊生活で冷え切っていたトニーの心もまた、ウィルに友情を感じることで少しずつ氷解していく。

予告編
http://www.youtube.com/watch?v=fnvcy1Ca1H4

感想「比較映画が無いため存在に意義がある。色々考えさせられた。」

戦死した兵士の遺族に訃報を伝える仕事、それが通告官(メッセンジャー)。『プライベート・ライアン』などでも登場するこの通告官ですが、実はそれを中心に描いた映画は今まで見たことがありませんでした。もちろん存在してるとは思いますが触れる機会がありませんでした。その意味で存在することに意義がある映画と思いました。あれこれもう少しな点があったとしても。

この映画の魅力は大きく3点でしょう。
・主人公と上官の対照的な戦争経験と心の葛藤描写

・メッセンジャーの仕事を今まで以上に垣間見れる

・ウディ・ハレルソンの演技

主人公のウィルはイラク戦争で活躍したがメッセンジャーの仕事は好んでない。上官のトニーはメッセンジャーの仕事はプロだが実戦経験がなくその葛藤がある。この対照的な関係が映画を面白くしています。

メッセンジャーという仕事は安全です、言ってしまえば。死にませんから。けれどこれも軍の仕事で重要な仕事なのです。それを実戦の苛酷さと対比させることで仕事の辛さを炙りだしていきます。

前半の多くメッセンジャーの仕事場面が描かれており、その葛藤に入り込んでいくのはやはり映画として新鮮に感じましたね。普通ならここから戦死者遺族の方のストーリーに進むので。もちろん本作でもそれは描かれますがあくまでも映画は『メッセンジャー』ですのでそこがとても新しく感じました。

そこに戦死者の妻、つまり未亡人の心の傷があぶりりだされていきます。それに主人公ウィルは感情移入して恋に落ちていきます。その行動には賛否あるでしょう。これに冷めてしまった方も多いようです。

しかしその行動が"遺族に感情移入しない上官"をあぶり出すスパイスに実はなっていたり。賛否あるメッセンジャーと未亡人の恋が結果としてウディ・ハレルソン演じる上官を際立たせ、ウディ・ハレルソンの名演技を我々に見せつける流れにもなってるのです。映画的な面白みです。

前半がいい意味でとても苦しいメッセンジャー描写だったので後半の故意的感傷描写には涙を流すほどの感動は得られませんでした。しかし冒頭に書いたようにこの切り口の映画が完成し、我々に届いただけで素晴らしいことだと思いました。

メッセンジャーの映画はまだまだ余白があるジャンルだと思うので全く別切り口え映画が製作されたらなと思います。

12月1日追記) DVD/iTunes発売中

Amazon
=メッセンジャー [DVD]

iTunes

史上最も美しい悲劇映画、ここに!!『アンナ・カレーニナ』 【映画紹介/2013年公開作】[ネタバレなし]



基本情報
日本語タイトル
『アンナ・カレーニナ』

原題
"Anna Karenina"

監督
ジョー・ライト監督

出演
キーラ・ナイトレイ、ジュード・ロウ、アーロン・テイラー・ジョンソン、マシュー・マクファディン

公式サイト

ストーリー
19世紀末のロシア。政府高官カレーニン(ジュード・ロウ)の妻にして、社交界の花として人々から注目されるアンナ・カレーニナ(キーラ・ナイトレイ)。しかし、華やかな生活の裏で夫との愛なき結婚に空虚なものを抱いていた。そんな中、彼女は離婚の危機に陥った兄夫婦の関係を修復させようと、彼らのいるモスクワへ。駅に降り立ったアンナは、そこで青年将校ヴロンスキー(アーロン・テイラー=ジョンソン)と出会う。彼から強い思いをぶつけられて戸惑う彼女だが、自分にも彼を慕う気持ちで胸がいっぱいだった。(シネマトゥデイより)

予告編

感想
試写会にて鑑賞してきました。

ジョー・ライト監督、これまたとんでもない傑作を作り上げました。

悲恋なストーリーをあざ笑うかのようなどこまでも美しい世界観。
舞台セットで繰り広げられているかのような特殊演出。
その中に溢れるジョー・ライト監督らしさの数々、キーラ・ナイトレイの美しさ…。

これは凄まじい作品です。
 ”美しすぎる”と批判すら出た本作。
どこまでも美しく、物語はどこまでも悲しく、その対比が一つの映画となり芸術となりました。

原作の通り、不倫・悲恋物語である本作。
万人受けなんてしないでしょう。
しかしこの世界観にハマったら抜け出せない引力が本作にはあります。

ハマったらこういうしかない。
”傑作だ"と。
『アンナ・カレーニナ』、いつもの数倍の熱量でレビュー書いていきたいと思います!!



ジョー・ライト監督の神懸かり演出
『プライドと偏見』、『つぐない』とキーラ・ナイトレイと組み、
どちらも傑作に仕上げ世に送り出したイギリスのジョー・ライト監督。
特に『つぐない』は私のオールタイム・ベストムービーです。

その後『路上のソリスト』『ハンナ』とハリウッドで2本を監督。
どちらも味のある作品でしたが『プライドと偏見』『つぐない』には敵いませんでした。
駄作じゃないけど傑作ではないもやもや感が漂い、『つぐない』を指標にしてしまうと落胆をしてしまったのも事実でした。

そんなジョー・ライトが再び、キーラ・ナイトレイ主演で歴史ものを手がける。
これは期待せずにはいられなかったわけです。
しかし不安も少しばかり…なぜなら"あの『アンナ・カレーニナ』"の再映画化だったからです。

1877年にロシアで出版されたトルストイの長編小説『アンナ・カレーニナ』。
悲恋物語のバイブルとも言える傑作で、今日まで何度も舞台化、映画化されてきました。
誰もが知ってる物語、そして比較対象となる舞台や映画が数多くある。不安…w

その不安は予想の斜め上をいく演出により完全に払拭されました。
いや斜め上過ぎて一部で拒絶反応はありましたw
しかし、その斜め上の演出が見事に計算されたもので私は衝撃を受け、この世界観に完全にやられてしまいました。

言葉では非常に説明がしにくい今回の映画の演出方法。
映画の世界が、舞台で展開されているかのようなのです。
舞台のセットが入れ替わるように、映画内でセットが入れ替わったりするのです。

オープニング、アンナが舞台裏から出てきてステージを降ります。
すると客席に椅子は無くアンナの背後に壁が降りてきます。
するとそこが夫カレーニンの執務室へ早変わり…

(言葉で説明が難しい…w)

映画の中で舞台が展開されるという非常に特殊な演出が成されているのです。
あまりに特殊な世界観でこれに拒絶反応が起きたらそこまで。
普通の場面展開や屋外シーンもあり、全てが舞台ではありませんがやはり特殊ではあります。(理由は後述します)

この特殊演出を中心に、衣装や俳優陣、カメラワークなどがとにかく美に溢れています。
その美しさを堪能したい…ところですがそれをあざ笑うかのように主人公アンナは破滅への道を進みます。
その対比がまた素晴らしいです。

また、全編を彩るダリオ・マリアネッリの音楽が秀逸で見事!
『プライドと偏見』『つぐない』でも組んでおり、『つぐない』ではアカデミー賞作曲賞受賞!
今作でもアカデミー賞作曲賞にノミネートされました。お見事です。

『アンナ・カレーニナ』のストーリーに意外性はありません。
なぜならラブストーリー、悲恋物語の基本だからです。
つまり今日まで数千、数万と語られてきた物語のベースなのです。

意外性の無さに対しては変な脚色はされず淡々と破滅への道が描かれていきます。
しかしそれを支える美しい数々の"事もの"が新しい『アンナ・カレーニナ』を作り上げているのです。
そして映画が終わった後、映画というエンターテイメントとして満たされた満足感と、
物語による悲壮感を感じ、何とも不思議な感覚に陥りました。

その結果どうなるか?
もう一度観たいと思うのです。
私が傑作だと思う映画で毎度起きる症状が見事に起きたわけです。


美しさの裏でしっかりと描かれる悲恋がもたらす"心"
政府高官の妻であるアンナは、将校ヴロンスキーに恋をしてしまいます。
それは“神の掟”に背くことになりますが、自らの気持ちを優先させます。
つまり不倫に走ります。彼女の中では"愛に生きる決意"をしたのです。

不倫や離婚なんて今現在の何倍、何十倍もありえなかった昔。
そこで愛を選び、言ってしまえば暴走したアンナの一生涯が丸々描かれます。
その結果どうなったか…あまりに有名なラストですがご存知ない方のために伏せておきます。
世相を気にせず愛に生きた結果、それ相応の結末がアンナには訪れます。

アンナのその行動は当然夫カレーニンや周りの人物をも巻き込んでいきます。
不倫に走る二人と、裏切られた夫カレーニンだけを描くだけでなく、
原作のように周囲の愛も描かれます。それを客観的に目撃することで私たちは答えの出ない"愛とは何か?"を考えることになります。

その"愛とは何か?"の答えは出ないにしても、
アンナのように破滅への道もあれば、
ある人物のように結果として笑顔が自然とこぼれる人生になる場合もあります。
また、愛が何かを悟る人物もいます。

このように様々な愛が描かれます。
アンナの最後の行動は現在日本でやったら最低と見なされる行為でしょう。
しかし行動こそ違えど、倫理感を無視した愛に全て身を預けるとあのように破滅への道を歩まざるをえないのでしょう。

愛とは本当に恐ろしいものであることを再認識させられました。
それと同時に愛を悟ったある人物を見て、愛とは捨てたもんじゃないなとも思うのです。
美しさばかりが先行して語られる今回の『アンナ・カレーニナ』ですが、物語もしっかりと深い所までアプローチしています。

ジョー・ライト監督、さすがです。


なぜ舞台のような演出が成されたのか?
冒頭書いた舞台のように映画の場面転換が成される点、
私はそれがとても素敵で最初は単純に美しいと見とれていました。
が、途中でなぜこういう演出をしているのか仮説を立てました。

「舞台=演じる=本当の自分を出してない」ということか?そのように持ったのです。
映画で描かれているのは貴族社会。つまり社交の場です。
つまり社交の場=舞台なのではないかと思ったのです。

これは仮説でしたが、調べていくうちにそれが当たってることがわかりました。

以下引用です。
"19世紀のロシアの貴族社会をどのように描くべきか試行錯誤していたジョー・ライト監督は「貴族は人生を舞台の上で演じているかのようだった」という歴史家の文章に出会った。そこでオペラ劇場のセットが建てられ、登場人物たちが時にリアルなセットで、時に観客の視線が注がれている舞台上でドラマを展開する大胆な演出プランを導入された。"

なるほど!
そう考えると次見た時、登場人物たちの心をより考えることができますね。
だからこそ郊外のシーンはほとんど舞台ではなかったのか、と納得もできるのです。



ジョー・ライト監督名物、開始10分で炸裂!
『プライドと偏見』『つぐない』で繰り出したジョー・ライト監督の名物演出があります。
そう、"長回し"です。
一つの場面をカットをせず一つのカメラでひたすら撮り続けるのです。

例)『つぐない』の長回し
http://www.youtube.com/watch?v=TvR6s9Iw01I


歴史ものである本作、今回もやってくれました!
今回は超長回しではなく、1〜2分程度の長回しが複数展開されました。
開始10分でダンスの振り付けのごとく長回しが出た時、思わずニヤつきましたw

引き伸ばすための長回しではなく、ジョー・ライト監督の場合ダンスの振り付けのような効果をもたらします。
今回も長回しはカメラがただ演技を撮っているというより、
振り付けが成されたダンスのような一場面の中、カメラも踊っているような感覚でした。

ジョー・ライト監督映画はこういった"監督らしさ"を味わうことができるのも素晴らしいです。


完璧なキャスティング
ジョー・ライト監督はキーラ・ナイトレイを最も美しく撮れる監督でしょう。
『プライドと偏見』『つぐない』共にとても美しいキーラを堪能できました。
今作もとても美しかったです。

キーラ・ナイトレイ自身、ジョー・ライト監督との信頼関係がしっかりできているので演技という面でも非常に魅力的に映ります。
今作は人妻で不倫する役。
それは大胆さを要求され、最後は破滅するのでとても難しい役柄だったと思いますが、見事に演じきっています。
アカデミー賞主演女優賞ノミネートされなかったのが残念で仕方ないです。

ジュード・ロウはカッコ良さを隠し地味な政府高官に。
演技も控えめ、しかしそのもの静かさの裏にある苦悩がしっかりと表情に出ており、
同情を買うであろうカレーニンを見事に演じていました。

そんな中驚いたのがヴロンスキーを演じた最もアーロン・テイラー・ジョンソン!
キーラ・ナイトレイもジュード・ロウも"さすが"という感じなのですが、
あのアーロンがこんな色男を演じるとは!!

"あのアーロン"てどのアーロンかと言いますと、
『キック・アス』のオタク全開のアーロンですw
それが人妻を落とし、大恋愛をする色男に見事変身!
それでいて後半は幼さというか、頼りなさを見せる辺りも見事。

これからもっと活躍していくことでしょう。


まとめ
不倫破滅劇と言う点でストーリー的に気に食わない方も多いでしょう。
これはもう致し方なしです。

特殊演出は単純に好みの尺度で賛否割れるでしょう。
これも致し方なしです。

しかし、映画の美しさ、これは誰しもが感じれるものではないかと思います。
アカデミー賞衣装デザイン賞を受賞した衣装は当然のこと、
映像全体の美しさ、ダンスの美しさ、俳優陣の美しさ、音楽の美しさ、セットの美しさ。

そしてどこまでも演出の効いた人の仕草や表情、そして動き、長回しによる効果。
"美"というものに溢れている映画だと今書きながら改めて思っています。
一度では堪能し切れません。もう何回か劇場で観たいと思います。

不倫破滅劇ではありますが、そこに溢れる美しさに完全ノックアウト。
今年観た映画でも『世界にひとつのプレイブック』や『ジャンゴ』と並ぶ、
私的完全ドストライクの超傑作でした!

ジョー・ライト監督、私はやはりあなたの撮る時代映画が大好きです。
ありがとう!!


ホラー映画好きな人、とりあえず観とけ!!w『キャビン』【映画紹介/2013年公開作】[ネタバレなし]



基本情報
日本語タイトル
『キャビン』

原題
"Cabin in the Woods"

監督
ドリュー・ゴダード

出演
クリステン・コノリー、クリス・ヘムズワース、アンナ・ハッチソン、フラン・クランツ、ジェシー・ウィリアムズ


公式サイト

ストーリー
森の別荘へとやって来たデイナ(クリステン・コノリー)やカート(クリス・ヘムズワース)ら大学生の男女5人。彼らが身の毛もよだつような内容のつづられた古いノートを地下室で発見し、呪文を唱えてしまったことから、何者かが目を覚ましてしまう。一方、彼らの知らないところではその一部始終が監視され、コントロールされていたのだった。そして、何も知らない彼らに魔の手が忍び寄り……。



感想
ネタバレしたら全く楽しめないタイプの映画です。
日本語予告編はネタバレしててやってられませんw
なので簡潔に言いますよ。

ホラー映画好きな方、劇場へGo!!

以上になりますw
いや、ホントそうなんですよ!w
ホラー映画好きなら結構お腹いっぱいになれる映画だと思います。

ストーリーがどうとか、結末がどうとか、構成がどうとか一切書きません。
詳しく調べないで行くべき映画です。
ちなみに私は詳しく調べないでサスペンス映画だと思っていったのでぶったまげましたwww

私、あまりホラー映画詳しくないのですが、
『CUBE』や『TATARI』を意識したんじゃないかと思われるシーンがちらほらと。
おそらくもっとたくさんのホラー映画のオマージュがあるのではないかと。

残虐描写はまあ凄まじいですし、気持ち悪いものたくさん出てきますw
しかしだからこそ、ホラー映画好きは楽しめるのではないかとw

ストーリーには詳しく触れませんが、おそらく現実世界における
"監視"というものを皮肉って描いてますねこれ。
9.11以後アメリカでは監視体制が強化されてますしね。
これ以上はネタバレになるので書きませんが。

とにかくこれはネタバレすべきでないホラー映画。
ホラー映画好きの方へ、お勧めです!!


6つ同時進行の複雑物語!『クラウド・アトラス』、全ては繋がっている。【映画紹介/2013年公開作】[ネタバレなし]



基本情報

日本語タイトル
『クラウド・アトラス』

原題
"Cloud Atlas"

監督
 ラナ・ウォシャウスキー 、トム・ティクヴァ 、アンディ・ウォシャウスキー

出演
トム・ハンクス、ハル・ベリー、ジム・ブロードベント、ヒューゴ・ウィーヴィング、ジム・スタージェス、ペ・ドゥナ、ベン・ウィショー、ジェームズ・ダーシー、スーザン・サランドン、ヒュー・グラント

公式サイト

ストーリー
1849年、太平洋諸島。若き弁護士に治療を施すドクター・ヘンリー・グース(トム・ハンクス)だったが、その目は邪悪な光をたたえていた。1973年のサンフランシスコ。原子力発電所の従業員アイザック・スミス(トム・ハンクス)は、取材に来た記者のルイサ(ハル・ベリー)と恋に落ちる。そして、地球崩壊後106度目の冬。ザックリー(トム・ハンクス)の村に進化した人間コミュニティーのメロニム(ハル・ベリー)がやって来て……。

予告編




感想(一気に語り下ろし)
この映画を"わからない"と批判することはとても簡単なことでしょう。
なぜなら"わからない"といったらそれ以上"理解しようとする"ことを放棄するわけですから。

6つのストーリーが同時進行するというシナリオ、
アメリカでの賛否真っ二つの評価やレビューなど、
前情報を入れられるだけ入れて"わかる"ために試写会に文字通り"挑んで"きました。

結果として混乱することはそんなになく映画の世界を堪能できました。
あまりに壮大な物語、未来の描写に時として疑問が湧くこともありました。
しかし映画が終わった後、この映画のテーマでもある"全ては繋がっている"を感じることが出来ました。

綿密に繋がっているのではなく、"過去と未来の何かと繋がっている"という漠然とした印象を本作は私たちに提起します。
過去の人間の生まれ変わりが自分で、また自分の死後誰かに生まれ変わるということが描かれます。
それは仏教的な思想で要は輪廻転生です。

アメリカではストーリーの難しさによる批判だけでなく、きっとこの思想に関しての疑問からの批判もあったようです。
そりゃ宗教が異なれば思想は異なりますからね。



細かくあれこれ語る前に本作を堪能するコツをまとめてみます。
せっかくの映画体験です。少しでも楽しむべきです。

本作は予習してこそ楽しめるのではないかと思います。
6つの物語の基本設定をまとめます。
※ストーリー的なネタバレではありませんのでご安心を


物語1
・1849年
・南太平洋
・アメリカ人弁護士と奴隷を中心にした物語

物語2
・1936年
・イギリス
・作曲家とアシスタントを中心とした物語
・映画タイトルでもある"Cloud Atlas"という曲を作る物語

物語3
・1973年
・アメリカ カリフォルニア
・女性ジャーナリストを中心とした物語

物語4
・2012年
・イギリス
・編集者のちの作家を中心とした物語

物語5
・2144年
・韓国ネオ・ソウル(現在のソウルの上にできた未来都市)
・クローン人間を中心とした物語

物語6
・2144年から数百年後
・新世界大戦後の世界
・ハワイで暮らす人間たちを中心とした物語


この6つの物語が絡み合いながら展開されていきます。
物語1で書かれた本を物語2のアシスタントが読むといった具合にそれぞれの物語は関連性を持ちます。
直接ではなく間接的に繋がっているのです。

人間関係などは絡み合いませんので映画を見ながら"今どの物語なのか"だけを意識すれば大丈夫です。

予習しとけばそこまで複雑怪奇ではないのです。

トム・ハンクスやハル・ベリー、ヒュー・グラントといったベテランから、
ベン・ウィショーやジム・スタージェスといった若手まで、
オールスターキャストの本作ですが、みなさんが複数の物語で複数の役を演じています。

トム・ハンクスなんかはわかりやすいですが、
男性俳優が女性の役やったり、またその逆があったり、特殊メイクで別人になっていたりと非常に面白いです。
私も全てを1回で認識できませんでした。

エンドロールで誰が何を演じていたか開示されます。
なのでこれ二回目の方が確実に面白いだろうなと思いました。

とにかく物語が6つあって、それぞれ時代が大幅に異なる。
それを意識しておきましょう。
それで混乱することは減るはずです。


1つ1つの物語は独立していて、それぞれが間接的に絡み合う。
演じてる俳優がどのパートも同じ。
これが新しいですよね。

映画の監督はマトリックスシリーズのウォシャウスキー姉弟。
そして『パヒューム ある人殺しの物語』のトム・ティクヴァ。
3人監督という珍しいものになっています。

マトリックスでも東洋思想が反映されていましたが、本作も輪廻転生です。
そして本作の面白さである"男性が女性を演じる"、"女性が男性を演じる"という点、この製作陣を見ると色々意図が見えてきます。

ラナ・ウォシャウスキー監督、元々は男性で性転換手術をしたのです。
つまり自らの肉体そのままに生まれ変わりをしたわけです。
こういった部分、"生まれ変わり"、"つながり"といった本作のテーマと関わりがあり、きっと言葉で語る以上に思い入れがあったんだろうなと察します。





ある程度の予習をし、ラナ・ウォシャウスキー監督の性転換手術のエピソードなども知った上で見た本作。
上記の通り混乱せず"わからない”ということはありませんでした。
物語が間接的に繋がる、つまり直接的に繋がっていない点は言葉で解説するのが難しい抽象的な印象を抱きました。

しかしその抽象的とは褒め言葉です。
"きっと私も過去と未来の繋がりの中で今を生きてるんだろうな"と思うことが出来ました。
その漠然とした印象を良く取るか悪く取るか、これで評価はまた分かれるでしょう。

そういった点で人には勧めにくい映画でもあります。
日本でも否定派が多くなると思います。
"ぱっと見の難しさ"と"抽象的な繋がり"故に。



物語に関して6つ同時進行や輪廻転生、抽象的な繋がりや印象といった評価分かれのポイントを書きましたが、それを差し置いて素晴らしい側面の多い映画でもあります。

まず音楽。
トム・ティクヴァ監督自ら作曲してますが、これが美しくて素敵なんです。
超大作の本作に静かにゆったりとした美しい音楽が流れます。

その意外性が見事に機能してます。
エンディングの静かな幕引きとか、いやあいいですね。


続いて映像。
これは6つの時代を描いているだけあり見応えあり。
未来描写に関しては"THE SF"といった近未来世界で賛否あるでしょう。

私もネオソウルに関しては何かあまりに理想化された未来だなと正直思いましたw
まあウォシャウスキーの世界観だなとw

しかしあれこれがいちいち美しいのでホント素敵です。

オープニングに物語1で海辺の水たまりに青空が映ってたシーンが印象に残ってます。
そこには雲(cloud)も映っています。
映画"Cloud Atlas"と関係あるのかなと思ったりもしました。


そして俳優陣の演技。
ショートストーリーの積み重ね故、熱演というものはありませんが、バランスが良かったです。
トム・ハンクスやハル・ベリーはさすがといったところで、
私的良かったのがベン・ウィショーとジム・スタージェスですね。

ベン・ウィショーはトム・ティクヴァ監督の『パヒューム』で主人公を演じました。
昨年は『007スカイフォール』でQでも演じ、ブームまたきたのかなと感じました。
ジム・スタージェスも軽めの作品への出演が多かったですが本作とても良い印象を残してくれました。

あといつも通り、ジム・ブロードベントは映画にいるだけで安心できますw




まとめに入りましょう。
前述の通り、否定派の多い映画です。
私も世界観で一部違和感を覚えました。

しかし壮大な物語の根底にある"全ては繋がっている"というメッセージ、
1つ1つの物語から感じられる"愛"の様々な形。
そして最後のまとめ。素晴らしい物語ではありませんか。

"理解しようとする"ことを怠らなければ物語はすーっと理解でき、心へ届くのです。
それに対して好き嫌いはあって然るべきでしょう。
しかし6つのストーリー故に物語を理解することを放棄するのはもったいないです。

壮大過ぎる物語、"完璧"ではないでしょう。
しかし、無駄なく紡ぎ上げられた今までになかった6つで1つの物語。
感じるものがたくさんありました。

傑作とはいいません。
だから私はこれ以降この映画へあれこれ言及することはほぼないでしょう。
しかし、数ヶ月、数年、数十年経った時、もう一度見返したいなと思います。

その時にまた何かを感じることができるはず。
そういった映画だと思ったのでした。