映画『誰も知らない』、今もどこかで起こっているかもしれないという、悲しい現実[ネタバレなし] - Cinema A La Carte

映画『誰も知らない』、今もどこかで起こっているかもしれないという、悲しい現実[ネタバレなし]

誰も知らない [DVD]
(C)2004 「誰も知らない」製作委員会 All Rights Reserved.

柳楽優弥が弱冠14歳にしてカンヌ国際映画祭の主演男優賞を受賞した映画『誰も知らない』。15年の構想の末に生み出された、是枝裕和監督の社会派作品。


実話を元にしたストーリー

“巣鴨子供置き去り事件”
1987年、父親が蒸発したとある家庭で、母親が4人の子どもを置いて家出。僅かながら仕送りはしていたが、事実上育児放棄の状態だった。翌年、警察の調べでそのことが発覚。メディアはこの事件を大きく取り上げ、世間を驚かせた。

2004年に公開した『誰も知らない』は、この事件を題材としています。置き去りにされた長男の視点から、4人の子どもたちの生活や周囲の人間との交流を描いています。重い題材を扱っていますが、作風そのものはそれほど重くはなく、ゴンチチの爽やかな音楽と共に、ゆったりとストーリーが展開していきます。


子役の魅力

本作最大の魅力、それは子どもたちでしょう。

是枝監督は、あらかじめ子役には台本を渡さず、撮影当日にその場面のセリフだけ教えて演じてもらう、という手法をとっています。台本を渡すと家で何度も練習してきてしまって、自然な感じが出なくなってしまうのが嫌なんだそうで、この『誰も知らない』以降つねにそのように撮影をしているそうです。

その効果もあってか、本作の子役たちは演技をしているとは思えないほど、自然でのびのびとした姿を見せてくれます。とくに主人公を演じた柳楽優弥は、本作でカンヌ国際映画祭の最優秀主演男優賞を受賞。これは“カンヌ史上最年少にして日本人初”という快挙でした。

(C)2004 「誰も知らない」製作委員会 All Rights Reserved.

事実と違うということ

初めに、本作は過去に実際起こった事件を題材にしたと書きましたが、ノンフィクションというわけではありません。過去の事件を元に脚本が書かれたフィクションです。なので、事実とは違っている点も多々あります。

これについて「事実を捻じ曲げている」「美化している」と思う人もいるかもしれません。ですが、“事実を元にしたフィクション”と銘打った作品において、それはいけないことでしょうか?

例えば、高畑勲監督のジブリ作品『火垂るの墓』はどうでしょう。この作品は野坂昭如の同名小説が原作で、野坂氏は戦時中の自分をモデルに主人公の清太を書いたと公言しています。しかし彼は、実際は幼い妹を疎ましく思っていたため、ちゃんと世話をしてあげなかったそうです。結果的に妹は餓死し、後に妹への仕打ちを深く後悔した野坂氏は、贖罪の意を込めて清太という人物を書き上げたのです。そんな原作から作られた映画『火垂るの墓』は、日本のみならず海外でも評価され、多くの人々に感動を与え続けています。

事実を正しく理解することは大切ですが、事実を元に「もしこうだったら」「こんな風になっていたら」と新たな物語を作っていくことは、悪いこととは言えないでしょう。先述した例のように、新たに作られた物語から新たな感動も生まれていくのですから。

(C)2004 「誰も知らない」製作委員会 All Rights Reserved.

果たして他人事だろうか?

劇中で、4人兄妹が住んでいるアパートの大家さんは、彼らの様子が明らかにおかしいことに気づいているのに見て見ぬ振りをしています。気づいているはずなのに、なにも言わない人たち。実際の事件でも、そういう人はいたかもしれません。というか必ずいたはず。でなければ、事件はもっと早く解決していたはずです。

もし自分がその立場だったらどうでしょうか? この作品は、4人兄妹に感情移入する映画ではなく、「もし自分の周りでこういう事件が起きていたら……」と考えるきっかけをくれる映画です。

是枝監督の映画の中でも随一の社会派作品。静かなテイストから溢れる力強い監督のメッセージ、ぜひ感じ取ってください。


written by ayako