『日本のいちばん長い日』感想&解説、映画の先の現実に私たちは何を考え、どう未来を見据えるべきなのか - Cinema A La Carte

『日本のいちばん長い日』感想&解説、映画の先の現実に私たちは何を考え、どう未来を見据えるべきなのか


1945年の8月14日〜15日に起きた宮城事件を中心に描いた終戦映画『日本のいちばん長い日』が8月8日に公開されます。戦後70周年、それぞれ感じるものがある映画でしょう。

※当レビューは映画の感想と映画に関する史実解説のまとめです。現在起こっている政治のあらゆる問題等のこじつけの材料とされることは望みません。映画の参考としてご拝読頂けますとありがたく思います。

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(C)2015「日本のいちばん長い日」製作委員会

まずは映画の感想

歴史映画として胸を打つシーンが多発し、天皇陛下のお言葉心に刺さり、サスペンス映画として見応え抜群。群像劇映画として名優たちの演技合戦を堪能。あの戦争を体験していない1986年生まれの私ですが、大変素晴らしい映画であったと心から賞賛を送りたいです。


「皆、国を思う情熱でした。」


鈴木貫太郎元首相の劇中でのこの言葉が全てを物語ります。終戦を巡り、ポツダム宣言受託を巡り賛否入り混じり、クーデターまで画策されたあの夏。そこに真の善悪は無かったのでしょう。皆、国を思う情熱から判断をし行動をしたのでしょう。歴史がその判断と行動の正誤を下すことにはなりますが、


「皆、国を思う情熱でした。」


この言葉を元に行動していると思うとクーデター未遂を起こした畑中少佐らを悪役として見ることはできません。言ってしまえばもやもやしかしない、そんな混沌とした映画の後半は答えの出ない「未来とは?」「平和とは?」という究極の質問を投げかけられているかのようでした。

原田眞人監督✕史実、『突入せよ!あさま山荘事件』や『クライマーズ・ハイ』でも徹底的なリサーチを元にハイクオリティの映画となっていました。本作もそれに続きます。私は戦争を経験していませんが、あの1945年の半分焼け野原となった東京を映画を通して心に植え付けられました。悲痛でした。

昭和天皇のお人柄とご覚悟鈴木貫太郎首相の命を懸けた終戦工作、迫水久常書記官長の見事な首相アシスト、阿南惟幾陸軍大臣の板挟みになった葛藤と力強き自決、畑中健二少佐の国を思うが余りに暴走する魂。全てが悲痛で圧巻でした。

サスペンス性を盛り上げドラマティックに描く所を描きながらも、史実をごまかさずエンタメ性よりも「あの日」を描くことを妥協せずに行った本作。あの日のこれがあったからこそ今こうして平和に暮らせている。そう思うと、答えの出ない物思いに耽りたくなりました。


総論としての感想はこんな感じです。


ちなみに『日本のいちばん長い日』というタイトル、1967年の岡本喜八監督の『日本のいちばん長い日』と同じですね。しかし今作原田眞人監督『日本のいちばん長い日』はそれとは明確に異なる作品です。



そもそも昭和天皇を映画で描くこと自体が2005年の『太陽』までタブー視されていましたので1967年の岡本喜八監督『日本のいちばん長い日』では主要人物として描かれませんでした。本作原田眞人監督『日本のいちばん長い日』では昭和天皇のシーン、余すこと無く存在します。群像劇の中の1人の主人公と言っても過言ではありません。

1945年8月15日未明の宮城事件を中心に描きつつも、本作原田眞人監督『日本のいちばん長い日』はその原作書籍である『日本のいちばん長い日 決定版』(半藤一利著)だけをモチーフとせず『聖断 昭和天皇と鈴木貫太郎』(半藤一利著)、『一死、大罪に謝す 陸軍大臣阿南惟幾』(角田房子著)を参考文献にしています。





後述で「宮城事件」等の史実説明を行いますが、原田眞人監督『日本のいちばん長い日』は1945年8月14日〜8月15日だけを描かず、鈴木貫太郎首相が就任した1945年4月7日から昭和天皇の玉音放送で終戦が国民に告げられた1945年8月15日までを描きます

日本の運命を決めたあの夏の長い日を描くに辺り、それまでの鈴木貫太郎首相と阿南惟幾陸軍大臣の苦悩を徹底的に掘り下げて描いていっているのです。

とてもとても濃い136分でございました。


[別記事]
『日本のいちばん長い日』の参考になった名作戦争映画とは?&原田眞人監督が好きな歴代戦争映画TOP20


この章はこの辺に致しまして、映画の概要紹介と俳優陣の功績を讃えて、史実解説を行ってまいります。

(C)2015「日本のいちばん長い日」製作委員会

どんな映画?

1945年8月15日に玉音放送で戦争降伏が国民に知らされるまでに何があったのか、歴史の舞台裏を描く。太平洋戦争末期の45年7月、連合国軍にポツダム宣言受諾を要求された日本は降伏か本土決戦かに揺れ、連日連夜の閣議で議論は紛糾。結論の出ないまま広島、長崎に相次いで原子爆弾が投下される。一億玉砕論も渦巻く中、阿南惟幾陸軍大臣や鈴木貫太郎首相、そして昭和天皇は決断に苦悩する。

参照:http://eiga.com/movie/81487/


予告編

演技合戦をライトに語るだけでも意義ある映画

終戦のあの日を描いているのでどの切り口でもシリアスに語るべき映画であるのは事実なのですが、本作、とにかく俳優陣の演技合戦が凄まじいのでそれを語るだけでも意義ある映画だったりします。

クレジットされてる俳優陣を挙げてみましょう。

役所広司

本木雅弘

松坂桃李

堤真一

山崎努

神野三鈴

蓮佛美沙子

大場泰正

小松和重

中村育二

山路和弘

金内喜久夫

鴨川てんし

久保耐吉

奥田達士

嵐芳三郎

井之上隆志

木場勝己

中嶋しゅう

麿赤兒

戸塚祥太

田中美央

関口晴雄

田島俊弥

茂山茂

植本潤

宮本裕子

戸田恵梨香

キムラ緑子

野間口徹

池坊由紀

松山ケンイチ


どうですか、強烈ですね。


堤真一、山崎努、戸田恵梨香、神野三鈴、キムラ緑子らは春に公開された同じく原田眞人監督の『駆込み女と駆出し男』からの続投となります。戸田恵梨香、本作では特別出演として短時間の出演ですがかなり印象を残していきます。神野三鈴とキムラ緑子は役所広司を見事に引き立てます。


映画.comさんの特集で「この俳優凄い!」的な特集が組まれています。

役所広司本木雅弘松坂桃李堤真一山崎努らを中心に。一応この5人が中心の群像劇と言っても問題無いと思います。それぞれ存在感を抜群に残していきます。

山崎努の圧巻の演技が私は特に印象に残りましたね。鈴木貫太郎首相のクセを見事に演じきっています。その山崎努について褒め続けたらもう何文字書いても足りないほどなのですが、今回はあえて松坂桃李について少し書きたいと思います。

と言うのも、この5人の中で松坂桃李だけ言ってしまえば若手です。他はベテラン俳優と言っても差し支えありませんよね。

それ故に結構松坂桃李は今回不安視されていたのですが、心配無用。前半は群像劇の中で陸軍の中の下として程々の存在感で立場を弁えた存在感を残します。ポツダム宣言受託→天皇陛下の玉音放送の内容を知ってからは狂気に取り憑かれたようにクーデターへ邁進。恐ろしかったです。

若手将校ゆえ、と言うのでしょうか。畑中少佐を存じ上げているわけではありませんが、この映画の松坂桃李は畑中少佐でした。あのイケメン俳優松坂桃李ではありませんでした。素晴らしかったと思います。

役所広司の板挟みに遭いながら終戦へ邁進する姿と自決のシーンは見ていて辛かったです。そして堤真一がなかなか意外な書記官長役ですが、うまいこと演じてますね。あくまでも総理の補佐ポジションなので目立ちすぎてはいけないわけですが、山崎努と『クライマーズ・ハイ』で共演しているだけあってうまく脇役に回りつつ渋い演技を発揮していました。

そして本木雅弘の昭和天皇はとても不思議でした。まるで昭和天皇そのもの。あの独特なお言葉回し等見事に演じていました。大切なのは似せることだけではなく、そのお人柄やご心情を演じること。それがお見事。天皇陛下のご苦悩が映画を通して垣間見られました。

ポツダム宣言受託に関するやり取りでもそうでしたが、それ以上にお人柄が感じられたシーンは阿南惟幾陸軍大臣の娘さんの結婚式の心配をするシーン。これは映画なはずです、そこにいるのは本物の昭和天皇ではなく本木雅弘さんなはずです。しかしこのシーン、とても神聖に感じ圧倒された自分がいました。本作の見所の一つですので是非映画を見て確認してみてくださいね。

主要登場人物以外のシーンで涙が止まらなくなったシーンが1箇所。神野三鈴演じる阿南惟幾の妻綾子さんが自決した阿南惟幾陸軍大臣に語りかけるシーンです。これはもう・・・悲痛ですが名シーンでした。

というように演技について語ったらいつまででも語れてしまうのが本作の1つの魅力でもあります。是非世紀の演技合戦をご堪能ください。

(C)2015「日本のいちばん長い日」製作委員会

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(C)2015「日本のいちばん長い日」製作委員会

(C)2015「日本のいちばん長い日」製作委員会

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用語解説と史実解説

終戦周りの歴史を描く本作、歴史を一切知らないと些か難しい部分があるかと思います。「映画において」大切な用語や史実についてまとめてみましょう。

※映画を鑑賞後「これは知っておいたほうが良いな」と思うものをまとめておりますので、通常の歴史の重要性の尺度では取捨選択しておりません。予めご了承ください。

※本内容はマスコミ試写会で頂いた公式プレスシートを参照にしております。


知っておくと良い用語

聖断
=天皇自らが下す決断。本作ではポツダム宣言受託がそれに当たる

御前会議
=天皇出席のもとで国策や戦略を決定する会議のこと

宮城
=天皇の宮殿のこと、現在の皇居に当たる

詔書
=天皇が発する文書のこと

玉音盤
=天皇が終戦の詔書を読み上げたものが録音されたもの

玉音放送
=玉音とは肉声のこと、終戦の詔書を肉声でラジオ放送されたことから「玉音放送」と呼ぶ

国体護持
=天皇の国法上の地位と権威を守ること

大本営
=戦時中の日本軍の最高統帥機関で、天皇のもと陸海両軍で構成されていた

最高戦争指導会議
=従来の大本営政府連絡会議に変わり1944年に発足した名の通りの最高会議

本土決戦
=日本の本土での決戦のこと、映画内でクーデターを画策した軍人たちはこれを主張し敗戦を認めたくなかった

ポツダム宣言
=1945年7月27日にアメリカ・イギリス・中華民国の3国連名で発表された宣言、日本への降伏勧告、軍国主義勢力排除、連合国軍による占領、植民地の全放棄、戦争犯罪人の処罰などが盛り込まれていた

侍従
=天皇に仕える者、クーデター未遂時に玉音盤を隠して守りぬいたのは彼ら

映画内で描かれる時系列

[回想]
1929年
=鈴木貫太郎は当時侍従長、阿南惟幾が侍従武官

[ここから時系列で映画で描かれるもの]

1945年4月7日
=鈴木貫太郎内閣成立、東條英機元首相の鈴木貫太郎首相への文句も映画で描かれる、鈴木貫太郎首相は陸軍大臣に阿南惟幾を指名。(ここで回想)

=戦艦大和撃沈


4月12日
=ルーズベルト米大統領死去、トルーマン副大統領が大統領就任
鈴木貫太郎首相 「今日、アメリカがわが国に対し優勢な戦いを展開しているのは亡き大統領の優れた指導があったからです。私は深い哀悼の意をアメリカ国民の悲しみに送るものであります。しかし、ルーズベルト氏の死によって、アメリカの日本に対する戦争継続の努力が変わるとは考えておりません。我々もまたあなた方アメリカ国民の覇権主義に対し今まで以上に強く戦います」

4月30日
=アドルフ・ヒトラー自殺


5月8日
=ドイツ、連合国に無条件降伏


5月25日
=東京大空襲


5月27日
=沖縄守備軍、首里城を放棄
(4月1日に米軍が沖縄上陸)


6月22日
=最高戦争指導会議、終戦へ向けて舵が切られ始める


6月23日
=沖縄守備軍全滅


7月27日
=ポツダム宣言発表


8月6日
=広島に原爆投下

=最高戦争指導会議開催、閣議招集、鈴木首相は抜き打ち御前会議開催

天皇陛下「私の名によって始められた戦争を、私自身の言葉で収集できるならありがたく思う。」


8月8日
=ソ連、日本に宣戦布告


8月9日
=朝型、阿南惟幾は陸軍の将校らに本土決戦を申し入れられる

=長崎に原爆投下

=陸軍将校らが阿南惟幾を担ぐクーデターを画策、阿南惟幾はそれを封じるために自らの意思と異なる「戦争継続」を内閣で訴えていくことに


8月10日
=御前会議で鈴木貫太郎首相が聖断を仰ぐ、ポツダム宣言の受託が決定されて国体護持を条件として連合国へ申し入れを行う

天皇陛下 「このまま戦争を続け文化を破壊し、世界人類の不幸を招くことは私の望むところではない。」


8月12日
=連合国から回答文が到着、回答文内における天皇陛下を「subject to」という訳について紛糾。外務省は「制限の下に置かれる」と訳したが、陸軍は「隷属する」と訳し、国体護持にならないとより、本土決戦の主張等強行な姿勢を示していくことに。


8月13日
=最高戦争指導会議が改めて開催される

=阿南惟幾陸軍大臣は天皇のことを気遣うが天皇の決意は固かった。

天皇陛下「心配してくれるのは嬉しいが、もうよい。」


8月14日
=御前会議で改めて聖断が下される

=夜に宮城事件(クーデター未遂)

=23時25分 天皇が玉音放送録音のため宮内省に到着、録音の無事終了

阿南惟幾「日本は滅びるものか。勤勉な国民だよ。必ず復興する。」


8月15日
=ポツダム宣言受託、日本無条件降伏

=阿南惟幾陸軍大臣自決

=畑中健二少佐自決

=正午の玉音放送、終戦

=鈴木貫太郎内閣総辞職


ざっとですが、映画を見る上での予習や見た後の復習になるえあろう史実をまとめてみました。参考になれば幸いです。

まとめ

終戦のあの日を中心とした映画であるため、みなさんそれぞれの戦争知識や経験、また価値観や心情で感想は変わってくると思います。

それで良いと思いますし、そうなっている映画だからこそ映画として素晴らしいと思います。

今現在起こっている政治論争と結びつける方もいるでしょう。私のレビューがその材料とされることが望みませんが、映画をその論争と結びつけることは今それが起こっていて戦後70周年を迎えるに当って決して悪いことでは無いとは思います。

映画的な良い面、悪い面を語りつつ、歴史論争をこの映画でしたら下手すると出口の見えない激論になるかもしれません。そういう映画です。良くも悪くも。

大切なのは「映画を見て、私たち個人がそれぞれ何を思い、何を考え、どう未来を築き上げていくか」でしょう。

それは平和という難しいものに限らず、よりパーソナルな仕事とか結婚とか家族とかそういうもので。あの日があったから今がある。今生きれることに感謝したくなる映画でした。


公開は8月8日からです。戦争の残虐描写はございません。多くの方が私たちの国の70年前の姿を映画で知ることを私は願います。

おしまい。