映画『グローリー 明日への行進』感想、スクリーンでやっと会えるキング牧師に魂が震える[ネタバレ解説あり] - Cinema A La Carte

映画『グローリー 明日への行進』感想、スクリーンでやっと会えるキング牧師に魂が震える[ネタバレ解説あり]

(C)2014 Pathe Productions Limited. All rights reserved.

アカデミー賞作品賞にもノミネートされた『グローリー 明日への行進』が6月19日に公開されます。一足お先に鑑賞させて頂きましたのでそちらの感想となります。素晴らしかったです。

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スコア

◯私的満足度
★★★★★(4.5/5)
=初のキング牧師映画、お見事でした!

◯ファミリーオススメ度
★★★★☆(4.5/5)
=キング牧師や公民権運動について知っていればお勧め。

◯子供オススメ度
★★☆☆☆(2/5)
=正直難しいでしょう。大人になったら見てほしい。

◯友人オススメ度
★★★☆☆(3/5)
=娯楽映画ではありませんが、わかりやすくキング牧師を伝えてくれます。

◯デートオススメ度
★★★☆☆(3/5)
=上に同じ。

◯映画リピーターオススメ度
★★★★★(5/5)
=今後キング牧師の映画が作られようと作られなかろうと、一つの伝記映画の指標かと。

◯WATCHAでレビューをチェック&書いてみる



(C)2014 Pathe Productions Limited. All rights reserved.

感想「魂を感じた」

『グローリー 明日への行進』の原題は『Selma』。

今から50年前の1965年のアメリカ、マーティン・ルーサー・キング・Jr.こと、キング牧師がアラバマ州セルマから州都のモンゴメリーまで黒人の未来を背負って行進しました。

そのスタート地点、それがセルマ=Selmaです。日本公開に当たっては本作の主題歌「Glory」からタイトルが改められましたが、映画を見れば決して変な改変とは思いません。良い改変です。

今までマーティン・ルーサー・キング・Jr.、キング牧師の映画は一度も製作されてきませんでした。『ヘルプ 心がつなぐストーリー』などで間接的に描かれたり、対になる活動家マルコムXの映画は製作されてきましたが、マーティン・ルーサー・キング・Jr.の映画は製作されてきませんでした。(理由は後述します)

遂に製作されたマーティン・ルーサー・キング・Jr.の映画は、史実そのものを丁寧に描きつつも再現することに徹せず、セルマの大行進を中心にマーティン・ルーサー・キング・Jr.と周囲の人々のハートを描くことにより軸を置いています。

なので、とにかく熱い、とても熱い。魂の映画となっています。

自由を求め命懸けの活動をした(そして暗殺された)マーティン・ルーサー・キング・Jr.の魂は、クライマックスで私の心にも入って来ました。

「グローリー!ハレルヤ!グローリー!ハレルヤ!」

その魂の叫び(演説)が最高潮に達しても映画は終わらず、その魂をより昇華させるジョン・レジェンドとコモンが歌う主題歌「Glory」により忘れられない映画体験として記憶に宿ります。

偉大なる人物の弱い部分も描きながら、信念を持って黒人の自由のために身を捧げたマーティン・ルーサー・キング・Jr.とその呼びかけに集まった2万5千人の人々、そしてその歴史の一部を見守ったアメリカ国民。決断を迫られたジョンソン大統領、人種隔離を頑なに曲げないウォレスアラバマ州知事。セルマを軸にぶつかり合う黒人と白人。

私たちの魂も震わせられる見事な一作です。

日本人としても決して他人事ではない、現代に生きているからといっても、自由な世の中と言っても、心のどこかで何か優劣を付け、自分の劣る人を差別する酷い根幹を持つ人間という生きもの。

完璧な人間になることができなくても、この映画を見ることで、少しは良き世の中をと望む気持ちが宿るかもしれません。


(C)2014 Pathe Productions Limited. All rights reserved.

どんな映画?

アメリカ公民権運動の最中、アラバマ州セルマで起こった血の日曜日事件を題材に描いた歴史ドラマ。1965年3月7日、前年にノーベル平和賞を受賞したマーティン・ルーサー・キング・Jr.牧師の指導の下、アラバマ州セルマで黒人の有権者登録の妨害に抗議する600人が立ち上がる。白人知事率いる警官隊は力によってデモを鎮圧するが、その映像が全米に流れると大きな声を生み出し、2週間後に再び行われたデモ行進の参加者は2万5000人にまで膨れ上がる。事態はやがて大統領をも巻き込み、世論を動かしていく。
参照:http://eiga.com/movie/81648/

予告編

セルマで何が起きた?

セルマからの行進を中心にマーティン・ルーサー・キング・Jr.を描く本作ですが、今から50年前の1965年にアメリカでいったい何が起きていたのか史実を整理しましょう。


参考:配給ギャガのプレス資料

1月
キング牧師と南部キリスト教指導者会議がアラバマ州セルマに目を向ける。セルマでは黒人市民のうち選挙権登録をされている者は2%のみであり、黒人の選挙権登録が長きにわたり妨害されていた。

2月2日
キング牧師、および数百人がセルマでの投票権抗議運動中に逮捕。

2月5日
ジョージ・ウォレス州知事がセルマおよびマリオンでの夜間デモを禁止。

2月18日
州警察がアラバマ州マリオンの行進者を攻撃。非武装のデモ参加者ジミー・リー・ジャクソン(26歳、キリスト教会助祭)が、母ビオラ・ジャクソンと祖父ケーガー・リーをかばって射殺される。

3月7日
ジョン・ルイスとホセア・ウィリアムズの主導の下、セルマからモンゴメリーへの最初の行進の試みがなされるが、エドマンド・ペタス橋で州警察や民兵隊によって阻止される。525人の行進者たちが催涙ガスで追い返され、多くが容赦なく鞭で打たれた。この日は「血の日曜日」として世界に知られることとなる。

3月8日
キング牧師が各宗派の指導者たちにセルマの行進に参加するよう要請。

3月9日
キング牧師が2度目の行進を率いるが、州警察の暴力を恐れてエドマンド・ペタス橋で引き返す。これは「反転の火曜日」として知られる。

行進の同日、夕食を済ませたボストンの白人宗教家ジェームズ・リーブが、棍棒を持った白人の人種差別主義者に襲われ激しく殴打される。2日後、リーブは頭部の負傷により死亡。

3月15日
リンドン・ジョンソン大統領が連邦議会と米国民に対し、「わが国において同じアメリカ国民の投票権を否定することは甚だ間違っている」と発言、直ちに投票権法の制定を行うと発表。後に最も力強い大統領演説の一つと称される。

3月17日
連邦裁判所裁判官フランク・M・ジョンソンが不平等の是正を求めて行進する権利を認める判決を下し、セルマの行進者たちが勝訴する。

3月18日
ウォレス州知事がアラバマ州議会で同判決を糾弾。

3月20日
ジョンソン大統領が、アラバマ州軍を連邦に加入させる大統領命令を発行。


3月21日
連邦軍に保護された約4000人の行進者が約80キロ離れたモンゴメリーを目指してセルマを出発する。

大統領に新法を通せば行進を中止すると交渉するが拒否される。州知事が絶対に阻止すると息巻く中、集結した525人の黒人が教会を出てペタス橋へと向かう。


2日目に歩くことになったキング牧師がテレビの前で見守る中、橋の向こうで待ち構えていた州警察と民兵隊が短い警告の後、警棒で次々と黒人たちを殴り倒していく。

催涙ガスの煙に巻かれ血を流しながら泣き叫ぶ黒人たちの映像がニュース速報として報道され、アメリカ中の7000万人の人々が息を呑んだ。



3月25日
2万5000人近い行進者たちがモンゴメリーに到達。キング牧師がアラバマ州議会議事堂の壇上で有名な演説を行う。

8月6日
ジョンソン大統領が投票権法に署名。


マーティン・ルーサー・キング・Jr.が暗殺されたのはそれから3年後、まだ活動半ばの1968年4月4日のこと。39歳でした。

映画で描かれるマーティン・ルーサー・キング・Jr.は1965年の話がメインです。しかし、彼の生涯全てを薄く伸ばして描くよりも、この期間に焦点を当てることでその人柄や理想とした未来、魂を感じることができました。

描ききれない偉大な人物ならば一部にフォーカスすれば良い。史実を荒らしはしないが、変える所は変える。その一つの成功事例としてこの映画は今後影響を持ち、意義あるものとなっていると私は思います。

(C)2014 Pathe Productions Limited. All rights reserved.


なぜ今まで製作されなかったのか?

今作『グローリー 明日への行進』を知った時に最初に思ったのは「そいえばキング牧師の映画なかったな」ということ。これは公開を知った後もずっと疑問でした。

スティーブ・ジョブズなんて死後すぐに映画化されたし、マーク・ザッカーバーグは未だ大活躍中なのに映画化されたし、活動家であってもドラマチックに映画化することが可能なマーティン・ルーサー・キング・Jr.はなぜ映画化されなかったのか疑問でありました。

その答えは「TBS RADIO たまむすび」火曜日の回、「アメリカ流れ者」のコーナーで本作について町山智浩さんが解説していて知ることとなりました。



マーティン・ルーサー・キング・Jr.の権利関係は遺族が所持をしており、遺族の許可無しにはあの有名な「I have a dream」演説を含んだ彼のエピソードを映画化することが許されなかったのです。

『ヒトラー最後の12日間』という映画でもそうでしたが、歴史上の人物を描くにあたって映画をより良いものに仕上げるには誰もが歴史の授業でならう表面的なエピソードには留めず、その人の弱い部分や人間性を描きたいものです。

マーティン・ルーサー・キング・Jr.は歴史の偉人でありながらも聖人ではなく彼もまた人間なので不倫エピソードが存在しています。そういった部分を遺族は許可できず映画化が成し遂げられなかったようです。

今回の『グローリー 明日への行進』では遺族の許可を敢えて取らず、スピーチ等は類語に変換するなど徹底的に権利をすり抜けて映画化されました。

しかしそれはマーティン・ルーサー・キング・Jr.への冒涜ではなく、彼の魂を今ここにスクリーンに蘇らせたかったからでしょう。

その真摯な姿勢は映画を見れば納得することができます。

詳しくはポッドキャストの音源がありますので以下をご参照ください。


とにかく凄いデヴィッド・オイェロウォの役作り!

本作でマーティン・ルーサー・キング・Jr.を演じたのはデヴィッド・オイェロウォ。何と7年間も役づくりを行い、徹底的にマーティン・ルーサー・キング・Jr.になりきりました。

その成りきりはそっくりさんコンテスト的なそれではなく、魂ごと乗り移ったかのよう。

キング牧師と一緒に自由のために闘ったジョン・ルイス議員オイェロウォを見た瞬間「キング牧師、お久しぶりです」と叫んだエピソードなどが彼の凄さを物語っています。これは百聞は一見に如かずなので是非映画を見て確信してください。

製作に時間がかかってしまったことは結果的に役作りを徹底的にできたということで本作においては良かったと思います。

ちなみにこのデヴィッド・オイェロウォはイギリス人です。それがマーティン・ルーサー・キング・Jr.を客観的に見てそこからアプローチできたという意味でこれも結果的に良かったと映画を見て確信できます。

映画の脇を固めるトム・ウィルキンソン(ジョンソン大統領役)とティム・ロス(ウォレス州知事)らの存在感も見事。

歴史を垣間見ながら多角的に心を刺激される作品、本当に素晴らしいです。

余談にはなりますが、この主役のデヴィッド・オイェロウォはちゃっかりクリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』で学校の先生役で出ています。この人です。これからの活躍が楽しみです。

『インターステラー』のデヴィッド・オイェロウォ

そして「Glory」

本作を語る上で絶対に避けて通れないのがエンディングのテーマ曲「Glory」の力強さです。

アカデミー賞歌曲賞を受賞したのは当然と言わんばかりの名曲と圧巻のパフォーマンスです。ジョン・レジェンドとコモンの掛け合いが本当に見事です。

これも百聞は一見に如かず!


プロモーションビデオ



伝説的な第87回アカデミー賞でのパフォーマンス



魂の映画、『グローリー 明日への行進』は6月19日より公開です。

第87回アカデミー賞作品賞ノミネート作品最後の1つ。映画ファンなら、歴史を知ってるなら見逃しわけにはいきませんよ。

是非劇場でご鑑賞ください。