『フォックス・キャッチャー』感想、多くを語らぬ恐怖[ネタバレなし] - Cinema A La Carte

『フォックス・キャッチャー』感想、多くを語らぬ恐怖[ネタバレなし]


アカデミー賞5部門ノミネートの『フォックス・キャッチャー』の感想です。ベネット・ミラー監督らしい多くを語らず全てを語る強烈な映画でありました。


スコア

◯私的満足度
★★★★☆(4/5)
=下手なホラーより恐怖を感じる強烈な映画でした。

◯ファミリーオススメ度
★★☆☆☆(2/5)
=そういう映画ではない。

◯子供オススメ度
★☆☆☆☆(1/5)
=そういう映画ではない。

◯友人オススメ度
★★★☆☆(3/5)
=かなり強烈で見る人を選びますが損はないかと。

◯デートオススメ度
★★☆☆☆(2/5)
=そういう映画ではない。

◯映画リピーターオススメ度
★★★★☆(2/5)
=ベネット・ミラー監督映画に外れなし!

◯WATCHAでレビューをチェック&書いてみる




一言感想「強烈・恐怖」

コメディ俳優として活躍してきたスティーブ・カレルの180度転換のシリアスで背筋の凍るような静かなる狂気の演技。不器用さと苦悩を滲ませるチャニング・テイタムの演技。弟を思い、デュポンとも渡り合うブ男に化けたマーク・ラファロの演技。

3人中心で静かに静かに、しかしじわりじわりと、最悪の結末へと進んでいく恐怖に息を殺しながら見入りました。静かなる進行を突然切り裂く銃声、呆気無い物語の終焉とあらたなる人物のリスタート、何かを感じたというより「見てしまった」感が強い映画でありました。

デュポン財閥の御曹司ジョン・デュポンによるレスリング五輪金メダリスト射殺事件、その最悪の結末へ向けて「そこで何が起きたか?」を本作は描いていきます。

三者三様思惑があり、利害関係が一致したように見えたのですが、そこは本音と建前。デュポンはデュポンで色々思うことがあり、マークはマークで、デイブはデイブで思うことがあったのでしょう。

言葉で語らず視線と表情、行動で心情を示していく高度な演出ゆえに難しい映画かもしれません。もしくはそういった語らぬ点に全く気づかなければ退屈な映画かもしれません。

この映画驚くほど静かな映画です。これはベネット・ミラー監督お得意の演出。しかしその静かさは計算され尽くしたものであり薄っぺらいものではないのです。観察眼で登場人物、本作で言うならデュポン、ジョン、デイブの心情を探っていくことで結末を迎えた時に整理し切れなくとも何かが心に宿る、そんな映画になっています。

非常に説明しにくく、娯楽性は皆無。しかし映画体験として強烈、凄まじいものであったことだけは明確にしなくてはなりません。

スティーブ・カレル、マーク・ラファロ、チャニング・テイタムの演技の素晴らしさ、そしてベネット・ミラー監督の演出に唸りました。苦しい話なので褒め言葉として二度と見たくないのですが、あまりに強烈だったのでまた見ることになるでしょう。

素晴らしかったです。




どんな映画?

ロサンゼルスオリンピックで金メダルを獲得したレスリング選手マーク・シュルツは、デュポン財閥の御曹司ジョンから、ソウルオリンピックでのメダル獲得を目指すレスリングチーム「フォックスキャッチャー」に誘われる。同じく金メダリストの兄デイブへのコンプレックスから抜けだすことを願っていたマークは、最高のトレーニング環境を用意してくれるという絶好のチャンスに飛びつくが、デュポンのエキセントリックな行動に振り回されるようになっていく。やがてデイブもチームに加入することになり、そこから3人の運命は思わぬ方向へと転がっていく。
参照:http://eiga.com/movie/79055/

予告編

ベネット・ミラー監督の鋭い洞察力と演出

ベネット・ミラー監督は今回の『フォックス・キャッチャー』が長編監督3作目。3作連続でアカデミー賞何かしらにノミネートされていて、主演男優は3作連続で主演男優賞にノミネートされるというとんでもない名監督であります。

『カポーティ』『マネーボール』『フォックス・キャッチャー』ときているわけですが、今回の『フォックスキャッチャー』は『カポーティ』の路線に近いですね。

ただ『マネーボール』含めて3作に共通されるものは「多くを語らない」ところです。台詞でない表情や動作で心情を語らせるわけです。『マネーボール』は台詞多めですが、それは野球に関連する会話なので主人公が心情を語るものではないので結局共通項です。

語らず苦悩した『カポーティ』のトルーマン・カポーティ、語らずもがいた『マネーボール』のビリー・ビーン、語らず暴発した『フォックス・キャッチャー』のジョン・デュポン。切り口に一貫性があります。

『フォックス・キャッチャー』では『マネーボール』の反動の如く世界観は静かなる恐怖に支配されていました。不気味な静かさの中に多重に意味を構成するこのベネット・ミラー監督と言うのはホント恐ろしい才能の持ち主だなと今回改めて思いました。

台詞で語らない点は難しくも思われるかもしれません。しかしある程度表情や物語の進行の行間を推測することで心情は浮かび上がってくる演出なのでさほど難しくはありません。もちろんある程度考えなくてはなりませんが。

『フォックス・キャッチャー』では悲劇が起きたその後も小さく描かれます。そこに希望があるかないかは何とも言えませんが、そこに希望があると信じたいラストでした。恐怖、狂気、苦しみ、怒り、狂い、ネガティブワードが似合う本作ですが、語らぬ演出ゆえに、嫌味はなし。

一度体験してみてはいかがでしょうか。

ベネット・ミラー監督作品