映画『アメリカン・スナイパー』感想、戦場の悲惨さ以上に蝕まれる心の悲惨さを描く、イーストウッドならではの洞察力に唸る[ネタバレなし] - Cinema A La Carte

映画『アメリカン・スナイパー』感想、戦場の悲惨さ以上に蝕まれる心の悲惨さを描く、イーストウッドならではの洞察力に唸る[ネタバレなし]


2月21日公開予定の『アメリカン・スナイパー』を一足お先に鑑賞してまいりました。ネイビーシールズで"伝説"と言われたスナイパーのクリス・カイルを描く映画で、戦場の悲惨さを描きつつも蝕まれる精神を見事に描いていました。さすがクリント・イーストウッド。



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スコア

◯私的満足度
★★★★☆(4/5)
=イーストウッドならではの洞察力が強烈な余韻を残す。

◯ファミリーオススメ度
★★☆☆☆(2/5)
=残虐描写はありますが「家族」を描いてるので大人なお子さんとかいらっしゃる方は是非。

◯子供オススメ度
☆☆☆☆☆(0/5)
=R15なので見せれません。

◯友人オススメ度
★★★☆☆(3/5)
=色々言いつつ戦争映画ですので好きな人は好きでしょう。

◯デートオススメ度
★★★☆☆(3/5)
=夫婦の心のすれ違いとそこからの復帰を描いてます。ある種カップルの模範かなと。

◯映画リピーターオススメ度
★★★★☆(4/5)
=イーストウッドで戦争映画、しかも『硫黄島からの手紙』と全然違うアプローチ。是非とも。

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一言感想

とても感想の述べにくい映画です。

それは映画を通して戦場を経験したような錯覚を持ち、主人公クリス・カイルの精神崩壊を目の当たりにし、彼の悲惨な最後と実映像での葬儀シーンを目撃したからです。エンドロール直前まで感想はある程度固まっていたのですが、実映像が流れるエンドロールで感情がよくわからないことになってしまいました。

良い意味でです。映画に引きまれたということです。

映画の完成度としては『父親たちの星条旗』『硫黄島からの手紙』と戦争映画も手がけた名匠クリント・イーストウッドなので申し分ありません。その2作とは全く違うアプローチが取られ、戦場の真っ只中にいる時でも主人公クリス・カイルの精神を描くことに主眼を起きます。

決して大きく取り乱したりしないクリス・カイル。しかし戦地から帰ってきた彼はまるでもぬけの殻。明らかに精神が蝕まれていました。そしてすれ違う夫婦。仲間が撃たれてしまったことの復讐心も芽生え4度も戦地へ出向いたカイル。

奥さんが泣きながら「存在は感じても、あなたの心がここにない。」、それをもぬけの殻の演技でブラッドリー・クーパーが体現します。決して叫んだり暴れたりせず、静かに唖然とする様、戦争が彼にもたらした傷は身体にではなく心にだったわけです。

あることから彼の心は何とか戻ってきます。「もう帰るよ…。」ここで初めて彼は奥さんに感情を露わに。蝕まれた心がやっと助けを求めるサインを出した瞬間だったのでしょう。

そして史実が示している通り、誰も想像しなかった彼の最期の時。そして葬儀シーン。クリス・カイルは本当に多くの人に愛され、尊敬されていた。それを痛感したエンドロールでした。

※エンドロールで途中無音になりますが、あれは演出意図とのことです。


あのシーンがいい、このシーンがいい。そういうことは自然と語りたいとは思わない本作。過剰ではなく淡々と描かれる戦場なのに引き込まれる。これはクリント・イーストウッドの名匠たる手腕故なのかもしれませんね。

戦場は全体の半分くらいですが戦争映画として見ても見事です。人間ドラマとしても見事。夫婦の物語としても見事。そして驚くほど愛国心溢れる映画。しかし『ブラックホーク・ダウン』の台詞にあるように「オレたちは仲間のために戦う」が真実であって愛国心は二の次なのかもなとも思います。

84歳クリント・イーストウッド、懇親の新作。R15指定の厳しい作品ではありますが、彼の新たなる傑作、劇場で目撃してはいかがでしょうか。



どんな話?

米軍史上最強とうたわれた狙撃手で、2012年に元米兵によって射殺されたクリス・カイルのベストセラー自伝を映画化。米海軍特殊部隊ネイビー・シールズの隊員クリス・カイルは、イラク戦争の際、その狙撃の腕前で多くの仲間を救い、「レジェンド」の異名をとる。しかし、同時にその存在は敵にも広く知られることとなり、クリスの首には懸賞金がかけられ、命を狙われる。数多くの敵兵の命を奪いながらも、遠く離れたアメリカにいる妻子に対して、良き夫であり良き父でありたいと願うクリスは、そのジレンマに苦しみながら、2003年から09年の間に4度にわたるイラク遠征を経験。過酷な戦場を生き延び、妻子のもとへ帰還した後も、ぬぐえない心の傷に苦しむことになる。
映画.comより


戦場の悲惨な経験は伝播する

リス・カイルは伝説のスナイパーで160人以上の敵を銃殺しました。どうやって彼が伝説になったのか、幼少期の出来事から丹念に描かれていきます。イラク戦争を描くというよりもクリス・カイルの生涯を描くことに主眼が置かれている感じです。

それでいて戦争描写や銃撃描写もしっかり入れ込みます。予告編でも使われている爆弾を持った少年を銃撃するのかしないのかの描写、冒頭付近で非常に効果的に使われていてハラハラもしましたね。

初めてイラクでの戦場を経験したクリス・カイル。帰国して平静を装うも血圧が下がらなかったりで明らかに精神がやられてしまっている状態に。しっかりとは描かれていませんが、おそらく帰国してあの呆然状態だと奥さんとの夜の営みも無かったのでしょう。あったとしても義務的なもの。

それくらいイラクから帰ったクリス・カイルは感情が抜け落ちており、その後2回目派兵、3回目派兵と積み重なって徐々に酷くなります。子供二人には恵まれましたが、夫婦関係は徐々に悪化の一途を辿ります。

彼が戦場で経験して心に負った傷は彼自身を蝕んだだけでなく、夫婦関係や奥さんの心をも蝕んでいったのです。この辺『ビューティフル・マインド』のジョン・ナッシュとアリシア・ナッシュの衝突を思い出したりもしました。

戦争の悲惨さを痛みを持って目の当たりにしたのではなく、静かなる心の崩壊を持って目の当たりにしました。その後の再生も描かれているのでその辺救いも…と言いたいところですが、クリス・カイルは悲惨な死に方をしてるので結局救いはないといったところでしょうか…。



さすがのイーストウッドだが戦争描写は派手ではない

ここまで書いてきて何となくおわかり頂けるかもしれませんが、本作の戦争描写はそこまで多くありません。悲惨な描写もありますが、『プライベート・ライアン』や『ブラックホーク・ダウン』のような残虐性をある種期待してる方は肩透かしを食らうでしょう。

なぜなら繰り返している通り、この映画はクリス・カイルの人生を描いているからです。そもそも彼の自伝が原作ですので。


ネイビー・シールズ最強の狙撃手
クリス カイル ジム デフェリス スコット マクイーウェン
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しかし堅実に、私たち観客がこの映画とクリス・カイルを理解するのに必要な残虐性はしっかりと描かれています。と言いますか、戦争映画でも滅多に出ないR15指定を本作は受けています。

これは罪のない子供がちょっと悲惨なことになるので恐らくあのシーンがNGなのかなと思います。腕取れたりとか『プライベート・ライアン』的なものはほぼ無いので。

映画の本質のための必要な戦争描写をしっかりと入れ込むその冷静な眼差し。敵の強敵スナイパーとの真っ向勝負の結末はカタルシス抜群!その緩急が、褒めてばかりでアレですが「さすがのクリント・イーストウッド」といったところではないかなと思います。



まとめ

クリス・カイルは戦争の犠牲者の一人であったのかもしれません。精神的にやられてしまったので。本作で描かれるクリス・カイルは子供に冷たく感じます。それは心が蝕まれている彼だからですね。

最後の方で少し快方に向かったクリス・カイルは妻にも子供たちにも心からの笑顔を見せていました。あれこそが本物の彼なのでしょう。

一概に戦争映画とも言い難く、アメリカ万歳な面もあるため賛否はあるでしょう。しかしとても堅実な「イラク戦争経験した一人の男と家族の物語」

アカデミー賞作品賞のノミネートが堅いでしょう。

天国のクリス・カイルに「あの退役軍人のように」心で敬礼をして本レビューをおしまいと致します。