東京国際映画祭 『紙の月』感想、映画は素晴らしい、主人公は最低(映画的には褒めてる)。真面目な人が悪に染まり…最後には…[ネタバレなし] - Cinema A La Carte

東京国際映画祭 『紙の月』感想、映画は素晴らしい、主人公は最低(映画的には褒めてる)。真面目な人が悪に染まり…最後には…[ネタバレなし]


11月15日公開、東京国際映画祭コンペティション部門参戦の吉田大八監督『紙の月』、東京国際映画祭のプレス上映で一足お先に鑑賞して参りました。

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私的満足度

★★★★=星4=素晴らしい作品でした!

【評価の参考値】
★★★★★+・・・満点以上の個人的超傑作!
★★★★★・・・・お見事!これは傑作です!
★★★★・・・・・素晴らしい作品でした!
★★★・・・・・・普通に楽しめました。←平均評価
★★・・・・・・・ん〜イマイチ乗れませんでした。
★・・・・・・・・ダメなもんはダメ!クソ!
※通知表のような5段階評価で、個人的にツボった作品は例外で5+にしています。
ちなみに私は映画は楽しむ&褒めるスタンスなので評価相当甘いです。

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真面目な銀行員が巨額横領をして最後は…

話の基本構図はいたってシンプル。

宮沢りえ演じるちょっと美人で地味で真面目な既婚銀行員が、ちょっとイケメンな大学生に言い寄られて夫婦生活も微妙だったので一夜を共に。そこから大学生に貢ぐようになる。しかし自分で使えるお金にも限界があるので銀行の預金を横領。その行為はエスカレートし、1万が100万、100万が1000万に。不倫…横領…詐欺…真面目に生きてきたはずの一人の女性がどんどん悪に染まっていきます。ついにはバレますが最後は…そして明らかになる彼女の知られざる過去…

こんな感じです。バレると書いちゃいましたがこの辺予告編にも出ているでのまあ良いでしょう。


[DVD発売済み]


『八日目の蝉』等の角田光代さんのベストセラー小説が原作ですが、そちらは未読の状態で鑑賞しました。

「ストーリー上驚くことは無いだろう」と思ってましたが、後半のバレるかバレないかの展開やバレた時のちょっとした脅しなどが予想外でハラハラドキドキ。しかも人間の悪い部分がじわりじわりと描かれ、言ってしまえば真面目な女性がクソ女に転落する様を見ていてもうへとへと。

俗にいうfeel bad(後味の悪い)映画に仕上がっており、文章を書きながらも喉の奥がざわざわする感覚を持っています。しかしそうさせた映画的な力はさすが『桐島、部活やめるってよ』の吉田大八監督ですね。

良い映画。しかし「面白い!」的なエンタメ性は低く人間の嫌な部分を見せてざわざわする。そんな感じですね。人間のエゴや嫌な面をあぶり出す映画が好きな人はきっと楽しめます。


最後まで「うわーうわー…」な感じで見てる時は嫌な気分でしたが…


書いてても嫌な気分ですwww


こう書いてるとわかると思いますが褒めてますからねw


横領という映画的に地味な題材を心の奥まで描く力

吉田大八監督は過去作『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』や『桐島、部活やめるってよ』などで、人間の嫌な部分をじわりじわりと描いてきました。桐島は鑑賞するみなさんの高校生活と結びついたことで熱狂的な指示を獲得しましたが、あれも結構エグい内容です。

本作は横領という、銀行強盗に比べたらそりゃ地味な内部犯行的な展開を見せるわけですが、地味で真面目な主婦銀行員が徐々に犯行に及んでいく姿を描くことで、一人の人間のドラマとしても見ることができます。

音楽の使い方が秀逸で、主人公の梨花が内に篭ってた心を外に向ける時、つまり不倫する時と犯行に及ぶ時だけ音楽がかかるのが見事でした。桐島の時もそうでしたが音楽を極力抑えることで、いざ曲がかかると異常なまでに反応してしまうのです。そういったわかりやすい演出効果も生んでおりました。

真面目な主婦⇒覚醒する⇒犯行に及ぶ⇒バレる⇒ちゃんちゃん

だけでない展開も予想外で、これは楽しめました。バレるまでのハラハラドキドキも心がむずむずして見どころなんですが、バレてからというか宮沢りえVS近藤芳正の展開がこれまた「うわーうわー」で、ざわざわしながらも予想外で見応えありました。

一本の線としての映画の展開が途中で予想外な方にいきつつも最後ちゃんと収める辺りはさすがの吉田大八監督といったところでしょう。


宮沢りえナイスキャスティングからの小林聡美無双!!

宮沢りえが7年ぶりに主演を務めた本作ですが、いやあいいですね宮沢りえ。

言葉を選ばないなら7年をブランクと考えて、そのブランクが有効に生かされていたと思います。これまた言葉を選ばないならば、劣化具合がちょうどいい!

幸の薄そうで真面目な主婦銀行員がぴったりでした。結婚してるのに夫婦生活がそこにはなく薄っぺらい感じが見事。その旦那役の田辺誠一も、悪い印象ないけど明らかに妻より仕事優先な雰囲気も見事。旦那として最低ですがw



池松壮亮はもう最近色んな女優さんと絡み合っていて、本作でも宮沢りえとの絡みがあるのでそこはちょっと映画から離れて客観的に笑ってしまいました。まあ『海を感じる時』が公開されてばかりなのでタイミングの問題でもありますが。でもハマり役でしたね。1994年の設定に何か合ってました。



大島優子ですが、何といいますか、大島優子らしさをそのまま活かせていたと思います。何というかAKB48で見てきた大島優子らしさが残ってるんです。ノリの良いちょっと可愛い女の子的なアレが。アンチAKBとかアンチ大島優子だとこれを攻撃材料に本作を酷評することもできるのかもしれませんが、これがいいんですよ。中盤まで割と存在感があって最後の方出てこない辺りでもバランスが取れていたと思います。元々AKBが好きな私からするとこの先(別作品での演技)も期待できると思いました。



近藤芳正石橋蓮司らのナイスアシストも見事。というか近藤芳正演じる上司の展開には伏線があったりもしますのでちょっと注目してみると面白いかもしれませんよ。



とここまで勿体ぶって来ましたが本作でもさすがの存在感と演技力だったのが小林聡美さんです。完全に贔屓目ですが小林聡美さん大好きなんですよ。独特の存在感というか、この人の感情を爆発させることはできないんだろうなという、鉄の心な雰囲気がたまりません。

本作でも横領を暴くきっかけと言いますか、宮沢りえ演じる梨花を最後に揺さぶる重要な役どころであり、上司にやり込められそうになりながらも信念を貫くカッコイイ女性になっていました。言うならば本作で唯一まともな人間なのかも。こういう女性、素敵です。

クライマックス付近に小林聡美演じる隅の台詞で心に刺さる台詞がたくさんありました。メモしておけば良かった…。

運命を受け入れての「行くしか無いでしょ」的な台詞だったり、

全てが崩れた主人公・梨花に対する「あんた惨めなの?散々お金使っていい思いして、私のことを惨めと思ってるんじゃないの?」的な台詞だったり。

最後の方で感情が死んでる主人公と「うわーうわー」で疲弊してる私たち観客に対して、小林聡美演じる隅が見事に映画を締めていきます。



宮沢りえが主人公として引き立ちつつ、前半は大島優子が良いバランスを保ち、最後は小林聡美無双。良い演技バランスでありました。見どころたくさん!



昔が今に影響を及ぼす

本作は横領事件のあれこれと同時に主人公梨花の中学生時代が描かれます。真面目なミッションスクールに通っていた梨花の人格形成のきかっけが描かれ意外と重要な役割を持っています。

そこでキリスト教の教えをあれこれ述べられるわけですが、それがまるで現在の横領事件を問いただしているように使用されるのが見事でした。過去は過去だけでなく現在を包括するものですね。

キリスト教の教えに対して疑問を持ち、シスターにつっかかる主人公の台詞。あの展開も「真面目過ぎる故にこうなったんだろうな」と思ってしまったり。とにかくこの梨花という主人公は堅いんですよね。柔軟性がない。だからこそ横領事件の歯止めも利かなくなってしまったのでしょう。

中学生時代の支援プログラムと今が繋がったと思うと最後アレだし…もう真面目な人が崩れると恐いですホント……。

真面目は良いことですが、真面目な人が一気に崩れる危険性を改めて目撃し、「真面目な人こそ本当は恐いのかも」と恐怖を抱きました。



まとめ

タイトルにも書きましたが、主人公が真面目路線から逸脱したらもう最低の人物になりましたというのが本作の描いているところ。

最低な人物を見事に描いた素晴らしい映画といったところでしょうか。

こんな巨額横領は銀行員でなければ対岸の火事かもしれませんが、「真面目から逸脱して通常の価値観ではしないことをしてしまう」という危険性は誰もが持っているかもしれません。

そもそも本作で言えば横領の前に不倫してますからね。不倫してなければ横領しなかったと思うので、その時点で真面目からの逸脱を描いているわけです。


不倫や浮気を描き、横領事件を描き、人間のエゴや価値観、主人公以外の銀行の不正、もうどろどろした部分が積み重なっていく様。ひたすら「うわーうわー」です。


しかしここには殺人事件とかが描かれるわけでも無いので、同じことを私たちが犯さなくても、「何か…規模の大小ありつつ…人間てこうだし…私たちも笑ってられるものでもないよね……」なんて思ったり。

『ダークナイト・ライジング』の「罪のない人間なんてこの世にいるの?」という台詞が頭をぐるぐるしています。

この記憶に残るネガティブなこと含めて、色々な過去を考えさせられる作品、さすが吉田大八フィルムだなあと。

基本的に褒めてますが、褒めつつ「うわーうわー」という気持ちに支配され続けています。

11月15日公開です。

おしまい。

『紙の月』基本情報

タイトル
=紙の月

監督
=吉田大八

キャスト
=宮沢りえ
=池松壮亮
=大島優子
=田辺誠一
=近藤芳正
=石橋蓮司
=小林聡美

ストーリー
バブル崩壊直後の1994年。夫と2人で暮らす主婦・梅澤梨花は、銀行の契約社員として外回りの仕事に従事し、その丁寧な仕事ぶりで周囲にも評価されていた。一見すると何不自由ない生活を送っているように見えた梨花だが、自分への関心が薄い夫との関係にむなしさを感じていた。そんなある日、年下の大学生・光太と出会った梨花は、光太と過ごすうちに顧客の預金に手をつけてしまう。最初は1万円を借りただけのつもりだったが、次第にその行為はエスカレートしていき……。

予告編
https://www.youtube.com/watch?v=TcTe6m5U7ZI


written by shuhei