『鑑定士と顔のない依頼人』感想、『神曲』でベアトリーチェに導かれ彷徨うダンテの如く、女性の声に恋し彷徨う極上の恋愛ミステリー【映画紹介/2013年公開作】[ネタバレなし] - Cinema A La Carte

『鑑定士と顔のない依頼人』感想、『神曲』でベアトリーチェに導かれ彷徨うダンテの如く、女性の声に恋し彷徨う極上の恋愛ミステリー【映画紹介/2013年公開作】[ネタバレなし]



『鑑定士と顔のない依頼人』基本情報

タイトル
=鑑定士と顔のない依頼人

原題
=The Best Offer

監督
=ジュゼッペ・トルナトーレ

出演
=ジェフリーラッシュ
=ジム・スタージェス
=シルヴィア・ホークス
=ドナルド・サザーランド

ストーリー
天才的な審美眼を誇る鑑定士バージル・オドマンは、資産家の両親が残した絵画や家具を査定してほしいという依頼を受け、ある屋敷にやってくる。しかし、依頼人の女性クレアは屋敷内のどこかにある隠し部屋にこもったまま姿を現さない。その場所を突き止めたバージルは我慢できずに部屋をのぞき見し、クレアの美しさに心を奪われる。さらにバージルは、美術品の中に歴史的発見ともいえる美術品を見つけるが……。

予告編
http://www.youtube.com/watch?v=6oeE9w_w6Ak


感想、「現代版ダンテの『神曲』を彷彿とさせる極上の映画!」

お宝鑑定士で60歳超えてるっぽいのに女性経験の無いコミュ障のバージルが姿を見せない依頼人の女性の声に恋をし、あれやこれやで話が転がっていく映画です。タイトルにも書きましたが、ジャンルは"恋愛ミステリー"なんでしょうかね。なかなか変わった映画です。

「極上のミステリーを堪能した」という感想での絶賛になります。お見事でした。


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具体的に4点ほど整理して書きたいと思います。
1:ラストが読めても伏線全てには一度では気付けないミステリー=お見事!

2:絵画、美術好きは出てくる絵画に熱狂する

3:ダンテ『神曲』を読んだことある方はそれとリンクし深く堪能できる

4:特殊な主人公ゆえの苦悩と至福が重厚で映画的


1:ラストが読めても伏線全てに一度で気付けないミステリー=お見事!

私はどうも頭が弱いようでミステリーだったりサスペンスだったり映画見ながらあんまりオチに気付かないんですよ。映画を楽しむスタンスなので割とのめり込んで素直に見ます。作り手からすると一番楽なお客さんでしょう(笑)

本作は最後に"大オチ"があるわけですが、当然そんなの気にせず見ておりまして、なので最後の"大オチ"にはぽかーんで衝撃だったわけです。しかし、ちゃんとは見てたので色々と伏線を記憶していて振り返るんです。それでもいくつか見落としてるに違いないと思うほどでした。

実際、この映画の絶賛続出の根底にはそれがあるように思います。ネット見る限り"大オチ"には途中で気付かれた方多いようです。しかし、それでも絶賛続出です。これは伏線がそれだけ巧みだということでもありますし、それでも気付き切れていないということもあるのでしょう。

また"大オチ"が全てではないしっかりとした物語である点も素晴らしいのではないかと思います。"大オチ"、"どんでん返し"というのは観客を騙す目的ではなく映画に別の側面をもたらす手法であるべきです。それが本作はしっかりと機能していたということです。

2:絵画、美術好きは出てくる絵画に熱狂する

私の絵画や美術に関する知識は乏しいです。"好きだけど詳しくない"というレベルであります。それでも映画に度々出てくる主人公の部屋の絵画には熱狂しましたね。

「お!ゴヤの"ベルムーデス夫人の肖像"!」

「おお!!ルノワールの"ジャンヌ・サマリーの肖像"!!」

「おおお!!!モディリアーニの"青い目の女"!!!」

と、まるで学校で勉強したての知識をひけらかす自慢癖のある小学生のような態度ですが、映画を見ながら発見する喜びを感じました。どうもあの部屋にある無数の肖像画は全て本物を使用しているようでして、そうなると美術詳しい方はあの無数の肖像画の全ての歴史的背景をも映画の奥に意識付けられるのでたまらないでしょう。

3:ダンテ『神曲』を読んだことある方はそれとリンクし深く堪能できる

主人公の名前がバージルなんです。つまり別名ウェルギリウス。映画の話を追いながらダンテの『神曲』地獄篇、煉獄篇のウェルギリウスを思い浮かべた方も多いのではないでしょうか。

しかし、ここで面白いのは決してストレートにそれを意識してるとは捉えられないところです。むしろ、ウェルギリウスの役目は周りの登場人物たちに分散しているように思えます。深読みしてしまえば導いてる監督自身だったり?

『神曲』の主人公ダンテこそが本映画の主人公バージルでしょう。顔のない依頼人ことクレアはもうこれどう見てもベアトリーチェです。『神曲』において主人公ダンテはベアトリーチェへの思いゆえに冥界を彷徨います。本映画だとバージルはクレアによって女性に興味が無かった心情を揺さぶられ、恋心を伴って彷徨うことになります。完全に『神曲』の世界です。

『神曲』におけるベアトリーチェは著者ダンテ自身が若かりし頃に恋した女性がモチーフである実在論とキリスト教神学を象徴した象徴論とが未だに決まってませんが(決まってたらごめんなさい、知識不足です)、ベアトリーチェは愛の象徴としてそこにいることは変わりまりません。

その愛は本映画において重要な側面を占め、愛の象徴であるセックスを持ってその喜びを感じ、記憶に刷り込まれることを明確に示しています。クライマックスにセックスの回想シーンが頻発するのは"ベアトリーチェに囚われたダンテ"="クレアに囚われたバージル"なのです。

ここまで書いたことは完全に私の憶測ですが同じことを仰ってる方海外にもいらしたのでお仲間です(笑) 私は一般教養レベルでしか『神曲』を知りません。ですので、より詳しい方はもっと細かく『神曲』とその解釈論からこの映画を展開していけるのではないかと思います。

4:特殊な主人公ゆえの苦悩と至福が重厚で映画的

主人公は60歳前後(歳は出てなかった気がする)になっても言ってしまえば童貞です。女性を知りません。女性の知らない成人は女性に対して幻想を抱きます。(逆もまた然り)その幻想は時を重ねるごとに肥大化していくことでしょう。

そんな主人公バージルが女性の声に恋をしたらそれは演技で出ないほど色々と痛い妄想を伴った恋心になっていたと思うのです。しかも物語の構成でうまいと思ったのがクレアの母親の肖像画を示していたこと。この絵から「壁の裏のクレアもきっと美しいのだろう」と妄想が広がっていくわけです。

そして映画の後半は・・・ああなるわけでありますよ。ネタバレはしません!(笑)

苦悩と至福、とても重厚で映画的魅力に溢れていたと思いましたね。ラストの主人公は苦悩を抱えていたと思いますが、至福に囚われていたように思いました。3で書いた通り"ベアトリーチェに囚われたダンテ"のように。

まとめに入ります。

そんなこんなで、この映画は絵画や美術の知識、ダンテ『神曲』などの文学史知識、キリスト教知識などで見方が変わってくる映画だと思いました。またミステリー映画なので、謎解きに強い方弱い方でも見方(読み方)が変わってくる映画でしょう。

人ぞれぞれ全く違う視点から本映画にアプローチしていき、最後に衝撃を味わう映画ということでしょう。

私は冒頭に書いたように「堪能」しました。手放しで拍手を送りたいというよりただただ唸りました。「凄いぞ・・・!」と。

どうしても今年ベストの映画は『ゼロ・グラビティ』なわけですが、本作も文句無しの満点以上の評価であります!もう少し勉強してからもう一度挑みたいと思います。


本作の監督ジュゼッペ・トルナトーレ監督作品では『ニュー・シネマ・パラダイス』や『海の上のピアニスト』もおすすめです!




written by shuhei