映画『ヘルプ 心がつなぐストーリー』紹介、近年稀に見る傑作人間ドラマに涙が止まらない…私的2012年ベスト映画[ネタバレなし] - Cinema A La Carte

映画『ヘルプ 心がつなぐストーリー』紹介、近年稀に見る傑作人間ドラマに涙が止まらない…私的2012年ベスト映画[ネタバレなし]


『ヘルプ 心がつなぐストーリー』基本情報

監督
=テイト・テイラー

出演
=ヴィオラ・デイヴィス
=エマ・ストーン
=ブライス・ダラス・ハワード
=オクタヴィア・スペンサー
=ジェシカ・チャステイン

ストーリー
1960年代の米ミシシッピを舞台に、白人女性と黒人家政婦たちの友情が旧態依然とした街を変革していく様子を描いたベストセラー小説の映画化。南部の上流階級に生まれた作家志望のスキーターは、当たり前のように黒人のメイドたちに囲まれて育ったが、大人になり白人社会に置かれたメイドたちの立場に疑問を抱きはじめる。真実を明らかにしようとメイドたちにインタビューを試みるスキーターだったが、誰もが口を閉ざすばかり。そんな中、ひとりのメイドがインタビューに応じたことから、社会全体を巻き込んだ大きな事態へと進展していく。


予告編




近年最高の人間ドラマ

60年代のアメリカはみなさんもご存知の通り白人と黒人とで待遇が別れる社会でした。それは差別とも言えるかもしれませんが、その構造が当時は当たり前であったのです。そんな当時を舞台にした富裕層の白人たちと仕える黒人メイドを描いた映画が『ヘルプ 心がつなぐストーリー』です。

この映画の物語は小さなものです。1つの街のコミュニティーの白人たちと黒人メイドたちの人間ドラマに過ぎません。2人の主人公を中心にしつつもアンサンブル的にそのコミュニティのあらゆるドラマが描かれていきます。

1回爆笑してたくさん泣きました。

予告編は割りと温かそうな雰囲気を醸しだしてますがそんなことはなく、心が痛むエピソードに涙したり、友情、愛情に感動して涙したり、そして最後にあらゆる人間ドラマが結末を迎え、その1つ1つに涙しました。最後は辛かったな。。。

映画を見終わった後、非常に重厚な人間ドラマであったにも関わらず、とても温かい気持ちになりました。これは見て頂ければわかると思います。感情移入してしまい、感動したなぁと思ったと同時に、非常に巧みに構成された映画だなぁと映画自体の完成度の高さ見事だなぁと思いました。

そして文句無しに2012年のベスト映画だと思いました。





原作小説の成り立ちと映画化の軌跡

キャスリン・ストケットのベストセラー小説が原作ですが、この原作非常に面白い成り立ちなのです。この映画は世界的に大絶賛されていますが一部である批判意見が「人種差別映画をこんなに軽く描くのはおかしい」というもの。しかしこれは対岸からの的を得ていない意見なのが原作の成り立ちと映画化の軌跡を知るとわかります。

キャスリン・ストケットは1969年生まれ、小説(映画)の舞台は1960年代です。キャスリン・ストケットが生まれ育った街はミシシッピ州ジャクソン。小説(映画)の舞台はミシシッピ州ジャクソン。

つまり、キャスリン・ストケットは自らの街で自分が生まれる10年程前を舞台として小説を書いたのです。10年という時の差は様々な事象での変化もありますが、その中で変わらないものもあります。キャスリン・ストケットは黒人メイドに育てられたようなので彼女の実体験や触れた文化が小説(映画)の中に多分に影響しているのではないかと思います。

なのでこの小説(映画)が放つ、時に思いながらも時に軽やかで笑いも入っているのは差別問題の軽視ではなくその世界の中に生きていた原作者の実体験あってこそなのです。実体験と創作が入り交じり、原作小説はアメリカで100週連続売上ベスト10に入るほどの大ベストセラーとなったのです。

とは言っても小説の映画化は脚色が成されるもの。映画の作り手の演出により人種差別の問題を軽やかに扱いすぎてるのではと思われる方もいるでしょう。これもまた的外れなのです。

今作の監督はテイト・テイラー。本職は俳優さんで本作が何と長編初監督作品!そしてなんとテイト・テイラー。原作者キャスリン・ストケットの幼馴染なのです!つまり彼自身もミシシッピ州ジャクソンで育ったのです。よって映画化した監督自身もしっかり彼の生い立ちを反映させており決して人種差別問題を軽く扱ったわけではないのです。

原作者と監督の育った街の彼らが生まれる10年前が舞台の本作。しかも彼らはヘルプ(メイド)に育てられています。その経験、気持ちが映画には存分に生かされていると思います。時に残酷ですが時に明るく笑いも入る。最後の落とし所は悲しさを残しつつも我々観客へ感動と勇気を示してくれるものなのです。


ストーリーの柔軟な構成がお見事

白人は黒人をメイドとして使うから白人は悪い、なんてことは本作では描かれません。この辺は原作者と監督の生い立ちがしっかりと活かされています。

白人は黒人をメイドとして使うことは当時当たり前であり、黒人からしたら社会構造上弱者であるので、白人が雇ってくれて仕事ができるので、それはそれでいいのです。本作では嫌な白人が何人か出てきますが、別にメイドは奴隷ではなく、あくまでもメイドとして働いているだけなので、暴力を受けたりなどは起きません。

本作の物語では1人完全なる悪役に相当する人物がいます。ヒリーです。婦人会の会長みたいなポジションの女性で、もう全編通して最低な女でした(笑)言葉悪いですが「この世から消えてくれ」と思うくらい憎たらしい人物でした。そんな彼女の暴走が色々と火種になっていきます。

しかし同じ白人でも主人公のスキーターは、黒人メイドに育てられてむしろ黒人を愛している。また本作のある意味最重要人物で私たち観客の涙を絞りとったセリアは黒人メイドを雇ってるというよりも愛しているというほど親しく接します。

そう、白人至上主義であっても、白人が悪いんじゃない。その構造に甘え暴走するのは良くないけれど、優しい心を持って接する白人もたくさんいるんだと思える構成です。しかし映画の舞台は地域コミュニティ。白人が黒人メイドを優しくすると白い目で見る白人もいます。そのため心では黒人メイドを愛しているのに、卑劣な扱いをせざるを得ない状況になり、結果的に1人の黒人メイドの人生を台なしにしてしまう悲痛なエピソードなどもありました。

その社会システム故に起きる様々人間ドラマが柔軟に展開され、良い人間、悪い人間、良い人間なのに悪いことをしてしまい悩む人間などが描かれています。スキーターの家の元メイドのエピソードとかもう胸が痛くなりながらぼろぼろ泣きました。あのメイドさんの演技もあってか・・・あのシーンが映画内で1番辛かったです。

そして様々な人間ドラマの1つ1つにしっかりと結末が用意されているのが良かったですね。どうなったかは映画を見て確認してほしいですが、ラストシーンを飾ったのは黒人メイドのエイビリンです。彼女の迎える結末、涙するしかありませんでした。なかなか悲痛な終わり方でしたが、どこかに希望も見える素晴らしいラスト。全編通して重厚な人間ドラマ、見事でした。


女性ばかりの出演者、演技合戦は近年稀に見る素晴らしさ

本作はアカデミー賞で作品賞にノミネートされました。それだけでなく、黒人メイドのエイブリンを演じたヴィオラ・デイヴィスが主演女優賞、同じく黒人メイドのミニーを演じたオクタヴィア・スペンサーが助演女優賞、また白人でキーパーソンになるセリアを演じたジェシカ・チャステインも助演女優賞にノミネートされました。そしてオクタヴィア・スペンサーは助演女優賞を受賞しました。

ヴィオラ・デイヴィス。この演技は・・・もうお見事ですよホントに。彼女が演じたのは白人に仕えるメイドですから感情を全面に出すことはできません。歯向かったらすぐ首ですからね。社会としても黒人は弱者の時代ですから彼女は全編を通して感情を抑制しているように見えました。しかし白人も黒人も人間です。怒りに溢れる時は溢れますし、悲しみに溢れれば涙したくなります。そうした1つ1つの感情を抑えながらも出すその演技、素晴らしかったです。

続いてもう1人の主人公、スキーターを演じたエマ・ストーン。彼女の行動が映画の物語を進めていくのですが、白人たちの中で変わった行動をする彼女が非常に新鮮でした。60年代に今現在の女性が放り込まれたような感じでした。エマ・ストーンの演技も非常に軽快で素晴らしかったですね。役柄上もストーリーを進める役柄でもあり、演技が軽やかなこともあってか賞レースには参戦するほどではありませんでしたが、元気なスキーターに合った素晴らしい演技だったと思います。

婦人会のようなところの会長に値する、本作の悪役にして最低の女ヒリーはブライス・ダラス・ハワードが演じました。言わずと知れた『ビューティフル・マインド』『ダ・ヴィンチ・コード』のロン・ハワード監督の娘さんです。いやぁ・・・もう最低の人物でした(笑)そう、それはつまりそれだけ憎たらしく演じられていたということ。最低な人物の熱演素晴らしかったです。最後の結末のあの表情、今後を暗示させられる見事な演技でした。

そんなヒリーに使えていた黒人メイドを演じたオクタヴィアスペンサー。いやぁ強烈というかパワフルでしたねぇ。彼女は物語の中で非常に卑劣なことをされるのですが、それでも明るいと言うかパワフルな性格で一生懸命に生きる姿が素晴らしく、映画の後半、今度はセリアに仕えるメイドとなってからは、セリアの生きる上での師匠とでも言えるがごとく、彼女をしっかり成長させていこうとする姿、前半と同じでパワフルな性格が光っていました。存在感半端なかったです。ちなみに彼女は映画内で最大の盛り上がりとも言える大爆笑シーンを担っています。あのシーンは・・・もう大爆笑ですよwwwこのシーンを不謹慎と言う方もいますが、このシーンなぜこうなったかと言いますと、ヒリーの黒人トイレ差別としっかりリンクしてるのでこうなるのです。痛快でした!

最後にセリアを演じたジェシカ・チャステイン。一見軽い女性に見えるのですが、非常に繊細な傷つきやすい不器用な女性でした。ジェシカ・チャステインが愛嬌たっぷりに演じていました。彼女の存在が映画を濃いものにしているのは間違いないでしょう。映画を観る前から彼女がアカデミー賞ノミネートということを知っていたので、登場した時は「こんな軽い女役でアカデミー賞?」って思ったのですが、蓋を開ければ・・・うん、納得です。彼女の物語の最後の結末シーンは笑顔に満ち溢れ感動しました。映画のフィナーレの2つエピソード前なので早めに映画から姿を消しますが、忘れがたい素晴らしいシーンでした。元気もらえました。こういう女性こそ強い女性になっていくのでしょう。


"The Living Proof"

The Living Proof、「生きてる証」「生き証人」という意味です。本作はその当たり前の「生きる」の大切さを改めて教えてくれた作品でした。

人間一人では生きられない。協力し合って生きていかなければならないのです。時に悪いやつ、邪魔するやつが出てきたときはリスクを犯して対抗しなければならない。でも一人だとそれはとても難しいこと。特に当時の黒人社会では。

でも、みんなで協力したらどうなる?少し前に踏み出せるかもしれない。そんなの当たり前のこと。しかしその当たり前ができないことが今現代世界では多い気もします。当たり前の大切さ、人と綱がる大切さ、笑ったり、泣いたり、怒ったり、苦しんだり、そんな当たり前の大切さ「生きてる証拠」の大切さを、あの60年代アメリカとは無縁の私でも感じることができました。

本作はエンディングの歌がとても感動的です。ラストシーン、結末が決定づけられたところから流れます。エンディングテーマの曲名は?そう、"The Living Proof"です。エンドロールは暗転せずエイビリンの後ろ姿の映像の中進んでいきます。ひたすら歩くエイビリンの背中、涙越しに観たスクリーンですが、その"The Living Proof"=「生きてる証」に涙をし、そして心が洗われました。

最後の彼女のナレーションでの台詞・・・素敵でした。是非映画を見てそれを噛み締めてほしいです。


こちらPV版



最後に

人種をテーマにしているのでとっつきにくい印象もありますが、暴力があったり、目を背けたくなるシーンもなく、誰もが安心して見れる作品だと思います。娯楽映画ではありませんが、それでも非常に見やすい作品であり、人間ドラマとしても一見の価値あり映画としてお勧めします。

小さなミシシッピ州ジャクソンというコミュニティの中での出来事を描いた映画なので、政治的にどうこうとか、黒人解放運動どうこうには全く波及しません。しかしそれだからこそ本作は傑作に仕上がったのでしょう。狭く深く・・・それでいいのです。

そこで描かれた女性たちの物語に涙し、笑顔と勇気を貰いました。生涯離さず何度も観て涙する映画でしょう。もしかしたら2年後、5年後、10年後、この映画を歴代最高の映画と言ってるかもしれません。愛してやまない素晴らしい映画に出会えました。


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