『許されざる者』感想、李監督の本気演出に俳優陣が見事に応えた本気のリメイク【映画紹介/2013年公開作】[ネタバレなし] - Cinema A La Carte

『許されざる者』感想、李監督の本気演出に俳優陣が見事に応えた本気のリメイク【映画紹介/2013年公開作】[ネタバレなし]


渡辺謙主演×李相日監督で再映画化された『許されざる者』をプレミア試写会にて鑑賞して参りました。クリント・イーストウッド監督・主演で第65回米アカデミー賞4部門を受賞した映画のリメイクになっています。

イーストウッド映画への最大限の敬意を感じられる本気リメイクに仕上がっておりとても感動しました。妥協しない俳優渡辺謙、妥協しない監督李相日。その真摯で本気の姿勢が映画から溢れでており圧巻の映画となっております。




客観的な感想より体感した"それ"をお伝えしたい

イーストウッド版との比較等も書かなければなりませんが、それよりもまずは私がこの映画をどう"体感したか"、"体験したか"を述べたいと思います。

舞台挨拶で「この映画からは凍てつく空気や、匂いなどが感じられる」と述べられた方がいらっしゃいました。小澤征悦さんだったかな?

これ、本当でした。

本作は映画の舞台である北海道で実際にロケ撮影が行われています。つまり映画に出てくる寒空、雪、凍てつく空気は実際のそれなのです。李相日監督はそれをそのまま映像に入れ込みました。

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簡単に言いますが、その空気感を映像から感じされるのは簡単なことではありません。観ていてこちらまでその寒さを感じ、雨や泥のシーンの不快さも感じ、血の匂いが漂う映像…いやはや、これ凄いです。

物語がどう、登場人物の心情がどう、演技どう、音楽どう…
と言う前に最大の魅力はこの体感するもの、体験するものなのです。

感受性は人それぞれでありますが、何かを感じることができるホンモノがそこにはあります。それが何よりの魅力と私は思い、それだけで本作は傑作と呼ぶに相応しい一作であると思った次第であります。




感じる作り手と演じ手の本気、そして敬意

難しいことを抜きにして、面白い映画というのは映画中その世界にのめり込むほどの引力を持った映画だと私は思います。

しかし『許されざる者』はそういう映画ではありませんでした。
もちろんいい意味で。


まず第一に本作はアカデミー賞受賞作のリメイクという時点で無意識に比較してしまいます。比較してしまいましたが、結果的にイーストウッド版の『許されざる者』に最大の敬意を払い、下手な脚色もされていない見事なものに仕上がっていました。

それ故にイーストウッド版が好きな方は口を揃えて「これもあり!」という感想を述べています。もちろん比較する上でどちらかの優劣を人間は付けますが、失敗リメイクとの声は公開前の現在あまり聞こえてきません。


第二に、本作が北海道で実際にロケが行われ、監督が李相日であるという点。
つまり、映画の設定となっている厳しい寒さはスタジオで撮影して作り上げられたものでは無いということがわかっているのです。

雪の中の格闘もそう、雨の中放り出されるシーンもそう、拷問シーンですら実際に痛みを感じる撮影だったとか…柄本明さんのラストのあの姿も実際に演じられたそうです。

つまり、意識した上でそのホンモノを痛感する映画に仕上がっているのです。
それ故に映画を観ながら時折「よくこんなことしたな…」と客観視する自分がいました。
しかしそれはいい意味でです。実際雪の中やってると思うと衝撃的なシーンがとても多かったです。


第三に俳優陣の熱演。
これはもう一人ずつ語りたいので別項目を設けますが、李相日監督というとても厳しい監督の元、俳優陣は力の限りを尽くしました。それがひしひしと伝わってきます。これも時折客観視して「渡辺謙凄い…」「佐藤浩市凄い…」と思いました。これもいい意味で。


そういった点からこの映画の本気を何度も何度も感じ、重厚感あることも相まってとても濃い映画の時間を過ごすことができました。凄い、という言葉が相応しいでしょう。『許されざる者』、凄いです。





完璧で本気のキャスト

李監督の本気演出に見事に応える俳優陣に心が震えました。


まずは主人公釜田十兵衛を演じた渡辺謙さん。魂の演技です。

台詞が凄く少ないんです。
しかし背負う罪は重く、もう刀は抜かないと決めていたのに駆りだされ、そして向かう決意。重いです。素晴らしいです。

ラストの暴れっぷりの素晴らしさは言うまでも無いのですが、私は中盤に死を恐れ取り乱す演技に最も震えました。明治初期ということもあり、公開前は『ラストサムライ』的かもと予想もされてましたが全く異なります。新たな渡辺謙がここにいます。



続いて大石一蔵を演じた佐藤浩市さん、いやはや悪い悪い。

素晴らしい演技でもう悪人全開の男を演じます。最初は一見ずる賢いくらいに思ったりもするのですが、冷静に考えるとここは北海道・蝦夷地。そう、当時は本土から言うならば追われた身の人間も多い未開の地でした。

なぜこの男がこの地にいるのか。
それを考えた上で行動原理を追っていくと、悪い奴だなとより思うことができます。
憎たらしい。そう思えたのは熱演故であることは言うまでもありません。




続いて馬場金吾を演じた柄本明さん。ハマり役です。

クリストファー・ノーラン監督映画にマイケル・ケインが出続けるように、李相日監督映画と言えば柄本明さん三連続出演。最初勝手な偏見で無理なキャスティングかなと不安もあったんです。

そんな心配は無用でした。主人公十兵衛に話を持ちかけるも心が折れる弱さに何とも言えないやるせなさを感じました。弱くて最低な男としてスクリーンに映る時もあるのです。しかし最後…最後の最後…強く勇敢な行動をしたと思いました。

江本さんも魂の演技でありました。


主人公3人、この3人とも許されない人物であるのです。
そう、何かしらの罪を背負っているのですから。
それをどう考え、感じるか、それは観客に委ねられれいるのでしょう。



お梶を演じた小池栄子さん、今となっては本当に素晴らしい女優さんになりました。
グラビアアイドル出だからと馬鹿にしていて申し訳ないと思います。
本作での存在感たるや…これ他の女優さんで演じられる方が思いつかないほど素晴らしいハマり役でした。


秋山喜八を演じた近藤芳正さん、少ない出演時間でありながら女郎宿を演じるずる賢い役。いや、ずる賢く振舞っているだけなのでしょう。しかし自分より上の身分の人には何も言えないという。そういった意味で彼も許されない人物なのかもしれません。

それが最後のあれにも繋がるのでしょうね。
素晴らしかったです。


北大路正春を演じた國村隼さん!思わず"!"です(笑)
すっごい搭乗時間短いのです。しかし存在感抜群!
映画において一瞬雰囲気が明るくなったのは國村隼さんのシーンでした。

すんばらしい…


姫路弥三郎を演じた滝藤賢一さん、こいつは最低だ!(笑)
役が最低という意味ですw演技は素晴らしかったです。
都合の良い方にばかり付いて、しぶとい奴。いるいる(笑)


映画における事件の発端となる堀田佐之助を演じた小澤征悦さん
最低な行為をした人間で罰を受けますが、それでも心は最低のまま。
しかし、彼の最後は恐怖に怯えていました。
人間は弱いですね、ホント。それが伝わってくる見事な演技でした。


 堀田卯之助を演じた三浦貴大さん、小澤征悦さん演じた堀田佐之助の弟で何も悪くないのに罰を受け受難な人生を送った男をか弱く見事に演じていました。
舞台挨拶で仰ってましたが彼の役は「許されてもいい役」でした。


そして顔を傷つけられ、心も身体も顔も傷ものとなった女郎なつめを演じた忽那汐里さん。
彼女の演技は主演陣に引けを取らない堂々たるものでありました。
とってもとっても台詞が少ないのです。しかしとても重要な人物。

その傷を負った人間だからこそ、傷を負った人間のことがわかるのです。
辛いけれど、その中で懸命に生きそして辿り着いた道筋に感動をしました。


そんな中主演三人を含めても最も素晴らしかったのが沢田五郎を演じた柳楽優弥さん。
柳楽くんといつも言っていた彼が『許されざる者』のベスト演技をしています。
これはもう見て感じてほしいです。本当に素晴らしい存在感です。

最初はコミカルに映画の空気を乱す印象だったのですが、そのコミカルさ、おちゃらけた振る舞いの裏には…やはり影がありました。震え、泣き崩れた五郎が脳裏に焼き付いています。本当に本当に素晴らしい演技でした。

日本アカデミー賞助演男優賞いってほしいです。

以上俳優陣について、褒めさせて頂きました。
完璧なキャストです。




そして岩代太郎の音楽、これでこの映画は伝説へ

近年李相日監督映画は久石譲さんが音楽を担当していました。
しかし本作は岩代太郎さん。『レッドクリフ』や『蝉しぐれ』『血と骨』など重厚で印象的な音楽が素晴らしい作曲家さんです。

結論からいくと今作は岩代太郎さんで正解でした。

久石譲さんも大好きです。映画の雰囲気により選択だったのではないでしょうか。
本作は生と死、罪、葛藤、血、傷、葛藤などが描かれます。この世界観にはあの岩代太郎節が必要なのです。

まだYoutubeに音源等上がってないので、映画を見て確かめてください。
素晴らしいです。


以上になります。
娯楽性は高くありません。重い物語が展開される我慢の映画です。
PG12指定の暴力シーンもあり目を背けたくなるシーンもあります。

そういった映画です。

しかし繰り返している通り、本気の映画であり 、素晴らしい映画です。

なぜリメイクにしたのか?という疑問もあるようです。
映画を見て「なぜリメイクか?」の明確な答えは見つかりませんでした。
しかしこの映画は今の日本に世界に必要な映画であることは確かです。

なぜなら人は誰しもが厳しい現実世界の中で葛藤し罪を背負い生きているのですから。
その厳しい世界の中でどう生き抜くか。それが人間に課せられた使命なのでしょう。




基本情報

タイトル
=許されざる者

監督
=李相日

出演
=渡辺謙
=佐藤浩市
=柄本明
=柳楽優
=忽那汐里
=小池栄子
=國村隼北
=小澤征悦
=三浦貴大
=滝藤賢一
=近藤芳正

ストーリー
江戸幕府崩壊後の明治初期、北海道開拓時代の歴史の中で、かつて「人斬り十兵衛」と恐れられていた男が、再び戦いに身を投じていく姿を描く。幕府の命の下、幾多の志士を斬りまくり、恐れられた釜田十兵衛は、幕府崩壊後いつしか姿を消し、人里離れた場所で静かに暮らしていた。やがて月日は流れ、妻に先立たれた十兵衛は、貧困の末に再び刀を手にすることになる。

予告編
 


written by shuhei