『エリジウム』、さすが『第9地区』監督作!見事な作り込みと反映された実世界の悲しいお話。【映画紹介/2013年公開作】[ネタバレなし] - Cinema A La Carte

『エリジウム』、さすが『第9地区』監督作!見事な作り込みと反映された実世界の悲しいお話。【映画紹介/2013年公開作】[ネタバレなし]





『第9地区』ニール・ブロンカンプ監督、安定の素晴らしさ!

『第9地区』という異色のSFでアカデミー賞作品賞にまでノミネートされる快挙を成し遂げたニール・ブロンカンプ監督。なんとまだ33歳という若さ!そんなニール・ブロンカンプ監督の新作ともなればそりゃ期待値MAXだったわけであります。

結論から言うと期待通りのSF設定そして作り込み、『第9地区』を上回る規模での大迫力の作品に仕上がっていました。そして…予想を超えるとてもとても悲しいお話。熱狂するようなSF映画ではなく、考えさせられ、涙するSF映画に仕上がっていました。

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2154年の荒廃した地球。貧民は荒れた地球に住み、富裕層は宇宙ステーションの理想郷エリジウムへ移住。しかもエリジウムには身体をスキャンし病気を治す機会が存在し、半永久的な命も約束されるのです。

地球はその富裕層の植民地のごとく劣悪な環境。貧民たちはロボットに管理され、少しでも反抗するようならロボットに捉えられる始末…犯罪歴も人間をスキャンするだけで全てわかり、犯罪者なら保護観察延長なども裁判なしでロボットが下すという冷徹なもの。言ってしまえば絶対住みたくない環境であります。

そんな完全二極化の世界で物語は2つ同時進行で進んでいきます。
これは予告編などご覧頂いた方はおわかりだと思いますが、マット・デイモンとジョディ・フォスターのダブル主演で2つの物語が進みます。


マット・デイモン演じる地球に暮らす貧民で犯罪歴ある主人公マックス。彼の地球での生活とあることがきっかけで余命5日にとなり、唯一その病が治るエリジウムを目指す物語が1つ目。

ジョディ・フォスター演じる冷徹なデレコート長官がエリジウムへ不法侵入してくる貧民を返り討ちにしたり、エリジウム内での権力争いでクーデタを起こそうとするのが2つ目となります。

そう、予告編では割りとマット・デイモンVSジョディ・フォスターを想像してたのですがそうではありませんでした。別々に進む物語で、それが不可抗力の如く一つに交わりクライマックスへと突入していくのです。

シンプルで王道の複数ストーリー構成。しかしさすがニール・ブロンカンプ監督でとにかくSFのその設定がお見事で細かいところまで行き届いてるわけです。それ故にひたすら見応えあるシーンが連続していくのです。

そして、後述しますが本作の"地球は貧民"、"エリジウムは富裕層"という構図は今私たちの住む現代の地球のある地域を実際モチーフにしているのです。それ故にSFとしての娯楽性に深みが与えられます。

その実世界をわかっていれば最後の悲しい宿命と言いますか、決断と言いますか。それがとてもとても深く心に響き涙するのであります。

エリジウムはSF映画としての面白さ、大予算を投じたアクション映画としての面白さ、マット・デイモン×ジョディ・フォスターという俳優的側面の面白さ、など娯楽性を持ち合わせつつ、とても考えさせられ悲しい物語でもあるのです。

最後にスカッとする映画ではありません。これは予想外で驚きました。しかし後述する実世界の事を考えるとこれはある意味希望のある悲しいラストなのかもしれません。バットエンドではないけれどハッピーエンドではない。これが現実というラスト。

そう感じた私はこの映画に思いっきり浸かることができ涙し大満足。手放しに拍手を送りたい次第であります。



これはメキシコの話だ!

メキシコのティファナ、アメリカのサンディエゴ。
この位置関係をみなさんはご存知でしょうか。
これは本作『エリジウム』のモチーフとなっている位置関係であります。


引いて見るとこんな位置関係です。



このサンディエゴとティファナがそのままエリジウムと地球に置き換えられてるのが本作なのです。

ティファナは映画『トラフィック』などにも登場しましたが麻薬の密売などでも有名で非常に治安の悪い街です。治安が悪いというのは当然貧困も要因になります。そしてティファナは一歩先に世界の大国アメリカの国境があるわけです。

しかもティファナは標高が若干高いため、国境を超えたアメリカの地がよく見えます。
そんなの憧れるに決まってるわけです。しかし、誰でも国境を超えられるわけではありません。当然入国に目的が無ければいけないわけです。

しかし理由もなく「アメリカに行けばきっと夢が叶って貧乏から脱出できるはず」と思うこともあるのでしょう。よってメキシコからアメリカへの不法入国者は後を絶たないのです。それはひとつの社会問題でもあります。

あの手この手で入国しようとするわけです。それが映画内では不正にエリジウム住人のIDを製造してエリジウムへ不法入国しようとするシーンとして描かれるわけであります。

このアメリカとメキシコの関係を知っておくだけで映画がとても深く堪能できるようになります。なぜなら地球にいる人物は遠くへ見える夢の地へでアメリカン・ドリームが叶うと思ってる人間として見ることができるからです。同時に私たちはアメリカが全て完璧な国ではないことも知っています。それ故にもやもやも含めて深く堪能できるわけです。

このアメリカとメキシコの置き換えが映画におけるエリジウムと地球であるという点、是非押さえて映画を鑑賞して頂ければと思います。



悲しい話の結末にある故郷

アメリカとメキシコ。この置換えを知っておけばラストシーンの持つ意味もより理解することができるでしょう。

主人公マックスは子供の頃シスターへ語った夢、フレイと約束したことの2つを叶えようと奮闘します。結果は映画を見ての通り。大きな犠牲を伴う「終わりよければ全て良し」ではない非常に深い結末を迎えました。

その後のシーン、映画をご覧になった方は思い出して欲しいです。理想郷エリジウムに全て帰結するラストシーンではないのです。つまり現実に置き換えるとアメリカが絶対良いというラストではないわけです。

アメリカはアメリカ。メキシコはメキシコなのです。
そしてその2つはただ敵対するのではなく、一種の協調共存への道筋を描いていたと思うのです。だって◯◯が地球へもたらされたのですから。あれは様々な解釈があると思いますが、私はODA(政府開発援助)の置き換えだと思っています。

国際法の話になりますが、政府開発援助には贈与や開発借款など様々な方式が存在します。映画『エリジウム』の最後のあのもたらしは言うまでもなくアメリカからメキシコへの政府開発援助の贈与に当たるものでしょう。専門家の派遣であります。

こういった地理関係や社会問題、国際法の視点から映画を考察できるのがニール・ブロンカンプ監督映画の素晴らしさの一つであります。しかもそれを知らなくてもSF映画として面白いわけでありますし。

しかしこういった視点はやはり知っておいた方が良い。深く映画を堪能することはかけがえない財産となる時間を過ごすことになるからです。




悲しい結末に何を思うか

繰り返している通り思った以上にヘヴィーな作品に仕上がっていました。
『第9地区』に比べ大予算が組まれたこともあり非常に見応えある映像の連発に熱狂するわけですが、最後の着地点が非常に重いためスカッとしないのです。

それを前述した実世界の話として考えれば深みがあるわけですが、それらを考えなかった場合意外と感想に困る映画かもしれないのです。

マットデイモン演じるマックスの捉えどころの無い生と死を直視する戦いぶりやジョディ・フォスター演じる冷徹なデコラート長官の素晴らしさたるや。そしてそれを凌駕するクルーガー役のシャールト・コプリーの存在感。映像や独創的な世界観やメカ、エリジウムの美しさなどなど…

魅力を上げたらキリがない本作。同時にこの着地点に様々な感想が吹き荒れることでしょう。

以下完全なる褒め言葉をまとめて鑑賞日記を閉じたいと思います。

SFアクションとして大熱狂するつもりで鑑賞したら、ティファナとサンディエゴの関係を諸に感じ、主人公や地球民の生き抜く姿に心打たれた。最後の決断と施しにやるせなさと希望の両方を感じ、これといった答えが出ず涙した。傑作なのかわからない。それこそが魅力。

以上です。



基本情報

タイトル
=エリジウム

原題
=Elysium

監督
=ニール・ブロンカンプ

出演
=マット・デイモン
=ジョディ・フォスター
=シャールト・コプリー

ストーリー
2154年、人類はスペースコロニー「エリジウム」に暮らす富裕層と、荒廃した地球に取り残された貧困層とに二分されていた。地球に住む労働者で、事故により余命5日と宣告されたマックスは、エリジウムにはどんな病気でも治すことができる特殊な装置があることを知り、厳しい移民法で出入りが制限されているエリジウムへ潜入を試みる。
予告編




written by shuhei