しっかりとした質を持ちつつ歴史の事実と異なる『終戦のエンペラー』、あなたは何を思う?【映画紹介/2013年公開作】[ネタバレなし] - Cinema A La Carte

しっかりとした質を持ちつつ歴史の事実と異なる『終戦のエンペラー』、あなたは何を思う?【映画紹介/2013年公開作】[ネタバレなし]



しっかりとした日本の描き方に素直に感心
映画のクライマックスに昭和天皇が登場。
もちろんそれは演じられているものであって映画であるわけです。
しかし私はこのシーン、じーっと見入ってしまいました。

それで気づいたのです。
この映画はとても真摯に日本を描いているな、と。

ハリウッド映画でとんでも日本な演出がされることは日常茶飯事。
今更何をされようが気にしません(笑)
しかし本作、そういう場面がほとんどないんです。

[DVD発売済み]
まず日本語を話す役者はちゃんと日本語を話します。
中国人や韓国人の方が演じてる箇所はないのではないでしょうか。
その他日本の描写も丁寧に描かれていきます。

日本人の主要登場人物はちゃんと日本人。
もっとアメリカ人が喜ぶように改変はできたはず。
しかし採算よりも真摯に描く、そんな姿勢を本作には感じました。
実際アメリカでコケたのを知ってそれを尚更思います。

私はハリウッド映画で日本が描かれる際いつも以下のようなスタンスです。
"日本人だからって粗探しするんじゃなくて、映画をいつもみたいに楽しもう"
いつもこれを心がけています。だからこそ『SAYURI』や『ラストサムライ』は大好きです。

しかしこの姿勢は妥協の上に成り立つスタンスでもあるっちゃあります。
なぜなら"ちゃんとした日本じゃないかもしれないけれど"という擁護的スタンスも正直持ち合わせているからです。

そんなことをあれこれ考えなくても本作『終戦のエンペラー』は見事なものでした。
ちゃんと日本は描かれているし、ハリウッド映画でありながら日本を歴史的に侮辱していることもありません。

昭和天皇といういささかセンシティブな存在を描きながらも決してそこからタブーな空気は感じません。マッカーサーが最後昭和天皇に語りかける台詞には喜びすら感じました。

俳優陣の演技も素晴らしく、マシュー・フォックスの奥深さはもちろんのこと、
マッカーサーを演じたトミー・リー・ジョーンズも素晴らしい。
そして初音映莉子さん、西田敏行さんの演技も素晴らしく、
脇を固める日本人キャストもとても良かったです。

映画を映画として観た時、特に不満はない、そう思う完成度の映画でありました。

しかし、本作は歴史にもとづいているように見えて大きな改変が加えられてしまっております。それについてはもやもや感が正直あります。なので手放しに本作を絶賛できない、というのが正直な感想です。

素晴らしい映画、だけどそこ変えちゃうの・・・

それが簡潔な感想になります。
その理由は下に書きます。



実在の人物、河井道さんを描かず、ラブストーリー要素を持たせたことにあれこれ
映画の主人公ボナー・フェラーズがマッカーサー元帥へ象徴天皇制を強く進言したのは史実です。連合国最高司令官軍事秘書であったフェラーズは映画の中では日本人の恋人あやによって日本を深く知っていく様が描かれます。

しかし史実はこれとは異なります。
史実としては河井道さんという方がフェラーズに日本人が天皇陛下をどう思っているかを説明し、天皇陛下を戦犯として裁こうものなら日本人は黙っちゃいないということを強く訴えたのです。

河井道さんは恵泉女学園の創始者です。つまりクリスチャン。宗派はクウェーカー。クウェーカーで有名な歴史上の人物と言えば新渡戸稲造。実際河井道さんは新渡戸稲造の愛弟子だったようです。

『陛下をお救いなさいまし 河井道とボナー・フェラーズ』(岡本嗣郎著 2002年 集英社)
という本が出版されており、実際この本が『終戦のエンペラー』の原案になっています。

さて、ここで大きな疑問が湧きます。
原案の本で主人公レベルの重要人物である河井道さん、映画には出て来ません。
そしてそのエピソードはあやという架空の人物との恋愛を混ぜることで語れれていくのです。

歴史映画においてフィクションが混ざることは普通にあり得ることです。
思いっきり捻じ曲げることもあれば、少しだけの時もあります。
しかし、それは本筋があってその周囲を変えるのが大半。

なのに本作は原案となっている『陛下をお救いなさいまし 河井道とボナー・フェラーズ』の軸である河井道さんを排除してフィクションの女性あやとの恋愛話に変えてしまっているのです。

ラブストーリーを入れたかったのでしょうか。
初音映莉子さんの美しき好演もあってあのパートは映画的な盛り上がりを持っているので、映画としてうまく機能してるのですが河井道さんとして描くことはできなかったのでしょうか。

とにかくこれが唯一にして最大の本作のもやもやなのであります。
昭和天皇の戦争関与に関して、史実がどうであるにせよこの方の進言がなければ昭和天皇は戦犯として扱われていた可能性もあるわけです。

"昭和天皇は戦争に関与したのか?戦犯にすべきか?"
というテーマを扱う上では絶対に必要なパートだと思うのです。
しかしそれが架空の恋愛パートに変更。

もちろん恋愛描写は映画的盛り上がりに有効です。
しかしやはり史実の中央にある原案の軸を排除したことがもやもやします。

同時のこうももやもやします。
私が大傑作だと思ってる『ソーシャル・ネットワーク』、この映画穴なんて全くない歴史的傑作ですが、あの映画のマークザッカーバーグは実在のマークとは比べ物にならないくらい改変されている・・・

それなのに私は『ソーシャル・ネットワーク』を手放しで絶賛し、
『終戦のエンペラー』にこのように苦言を呈する・・・
人間て都合いいですね。まったく(笑)

感想は最初のまとめに書いた通り。
決して映画的欠点の多い作品ではないです。
気になる方は是非是非。



基本情報
タイトル
=終戦のエンペラー

原題
=Enperor

監督
=ピーター・ウィーバー

出演
=マシュー・フォックス
=トミー・リー・ジョーンズ
=初音映莉子
=西田敏行

ストーリー
1945年8月、日本が連合国に降伏し、第2次世界大戦が終結。ダグラス・マッカーサー元帥率いるGHQが日本に置かれ、米軍統治が始まる。そんな時、日本文化を研究し、日本に対して格別な思いを抱くボナー・フェラーズ准将は、太平洋戦争の真の意味での責任者は一体誰なのかを調査するようマッカーサーから極秘に命じられ、独自に調べを開始するが……。(シネマトゥデイより)

予告編



written by shuhei