映画『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』紹介、人生は素晴らしいということを証明したベンジャミンの人生[ネタバレなし] - Cinema A La Carte

映画『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』紹介、人生は素晴らしいということを証明したベンジャミンの人生[ネタバレなし]



『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』基本情報

タイトル
=ベンジャミン・バトン 数奇な人生

原題
=The curious case of Benjamin Button

監督
=デヴィッド・フィンチャー

出演
=ブラッド・ピット
=ケイト・ブランシェット
=タラジ・P・ヘンソン
=ティルダ・スウィントン
=ジャレッド・ハリス

ストーリー
80代の男性として誕生し、そこから徐々に若返っていく運命のもとに生まれた男ベンジャミン・バトン。時間の流れを止められず、誰とも違う数奇な人生を歩まなくてはならない彼は、愛する人との出会いと別れを経験し、人生の喜びや死の悲しみを知りながら、時間を刻んでいく……

予告編



奇抜な設定、普通の物語

老人のようによろよろの身体と顔で生まれ徐々に若返り、赤ん坊になり死んでいくという、普通の人間と正反対の人生を歩んだベンジャミン・バトンの人生を描いた映画です。

奇抜な設定、まぁ言うならば有り得ない設定故にありえない展開が待ち受けているのか思いきや、全くそんなことはなく、良くも悪くも普通に波乱の人生を歩んだ模様を描いています。言うならば"人生の歩み方が正反対のフォレストガンプ"でしょう。脚本も同じエリック・ロスですからね。

そんな普通な物語を『セブン』『ファイトクラブ』のデヴィッド・フィンチャーが圧巻の映像美で描きました。普遍的な"素晴らしき普通の物語"。それが本作の素晴らしさであり、つまらないと批判される部分でもあるのでしょう。映画は好き嫌いあって当然ですのでこれで良いのでしょう。



物語のはじまり

映画は回想方式を取っています。ベンジャミン・バトンと恋人関係にあったデイジーの死に際、台風迫るニューオリンズが話の舞台です。ベンジャミンが残した日記をデイジーの娘が読み聞かせることでベンジャミンの人生が明らかになっていきます。

決して時間軸が入れ替わるなどという複雑な構成はなく生まれてから死ぬまでが描かれます。そんな映画の始まりに、二人とは関係のない物語が語られます。見た方ならわかるでしょう。反対に回る時計です。

時計職人が駅に付ける時計を飾りました。その式典は時の大統領も参列しました。しかし公開された時計は針の進みが逆向き。それはミスではなく時計職人の「時間よ戻れ」という願い故でした。

時計職人は戦争で息子を亡くしました。そんな息子との日々をもう一度取り戻し、戦争に行かせない運命を選択させてあげたかった。悲痛のメッセージが込められた時計なのです。

人を慈しむ心、運命の選択には限界があることなどが最初に描かれます。このエピソードは本編には正直関係ありません。しかしこれがあったからこそ感動的なラストを迎えたのだと思います。


物語の視点

ベンジャミンの日記による回想ですが、それを聞いてベンジャミンを思うデイジーが主軸です。時に面白おかしく、時に感動的に描かれるこの映画はベンジャミンとデイジーの子供の時期を抜け、お互い様々な経験を得たあと恋人としての二人が描かれます。

二人は今が幸せでも将来に不安がありました。そう「一緒に歳をとることができない」のです。ベンジャミンには若返る恐怖が、デイジーには老いる恐怖があるのです。

しかしデイジーは決意をし、それでも一緒に生きていこうとします。それに対してベンジャミンは迷います。何せ普通じゃないわけですからその気持ちはとてもわかります。子供が生まれてからも彼は迷います。

内気な性格のベンジャミンは感情を表に出さずひたすら悩みます。そして決めたことは子供には普通に父親が必要だということ。ベンジャミンはデイジーと子供の元を離れ放浪するのでした。

しかしそれは二人を見捨てたのではなく二人のためにしたこと。だからこそ17歳くらいに若返ったベンジャミンはおばさんになったデイジーの元に一度は戻ってきましたね。この時、再婚した新しい旦那との対面シーン、一瞬でしたが旦那さんは事情を知ってるわけですから、あの一瞬の表情の演技は見事だったと思います。本当に一瞬のシーンですが。

そしてより老いておばあさんになったデイジーは子供になったベンジャミンと再会。子供にはなったけれど脳はお年寄りの痴呆の状態にあり、もうデイジーのことを覚えていません。ありえない設定故のありえない事態は悲しみに溢れていましたね。

子供故に無邪気であるベンジャミン、しかし痴呆。昔愛した恋人なのにデイジーは孫と接するようにベンジャミンの面倒を最後まで見ます。奇抜ながらもそんなベンジャミンの普通の人生、彼は一生を生きることで何を感じたのでしょう。

彼に言えること、それは常に周りに人がいたこと。母親が死んでも育ててくれた母親がいたし、老人たちはベンジャミンを愛してくれた。デイジーとは子供の頃から友達だった。そして恋人になり夫婦になった。

船旅の出先では不倫ながらも人と接した。その後放浪し心で孤独を感じながらも必ず人と接していた。多くの死も見てきた。彼の人生はとてもとても賑やかなものだったのではないでしょうか。

多くの愛を感じて天国へ旅立ったことでしょう。デイジーも同じ。色々あったけれど最後にハチドリを見てベンジャミンの元へ旅だったことでしょう。ハチドリは八の字を描いて飛ぶ鳥、八の字は無限を表します。無限とは永遠。

きっとベンジャミンの元へ旅だったデイジーはベンジャミンと天国で永遠の幸せを掴むことでしょう。



死に対する仕方なさ

死に際は選べるものではありません。それは本作でもたくさんの死の描写で伝えられます。特に船が戦場へ向かった際の船長の言葉が顕著です。

「はらわたが煮えくりかえる。

運命の女神を呪いたくなる。

でもお迎えが来たら行くしかない」


この台詞がベンジャミン自身も父親が死ぬ際に発していますね。死は選べない。深いメッセージです。このメッセージを本作のあらゆる死に当てはめると悲しさと同時に仕方なさが感じられ、人生はそれだからこそ価値を持つのだろうという感覚を覚えることもできます。

この奥深さは映画を見れば見るほど感じるものでしょう。


なぜフィンチャーはこの映画を撮ったのか?

「人生は素晴らしい」
その映画キャッチフレーズはこの映画にぴったりでした。人の人生を見せられることで心が満たされる傑作でした。淡々と描かれているため、時にだれることも正直ある本作。

しかしそれらを妥協せず圧倒的な映像美で描いたからこそ画面に惹きつける魅力がそこにはありました。この辺りさすが映像の天才デヴィッド・フィンチャーです。

とは言うものの、この映画が公開されると知った時から彼のファンなら誰しもこう思ったのではないでしょうか?「デヴィッド・フィンチャーどうした?」と。

彼の今作前の作品を上げてみましょう。
『エイリアン3』
『セブン』
『ファイトクラブ』
『ゲーム』
『パニックルーム』
『ゾディアック』
そして本作。


本作の後に撮ったのは傑作『ソーシャルネットワーク』。その次はこれまた傑作の『ドラゴン・タトゥーの女』です。どの作品も表現こそ違えどどろどろした暴力性がそこにはあります。

『セブン』や『ファイトクラブ』はもうその言葉通りですし、『 ソーシャルネットワーク』は血みどろはありませんが、その物語は訴訟という戦いに支配され殺気立っています。『ドラゴン・タトゥーの女』もなかなかえぐかったです。(褒め言葉)

暴力を表現することが得意なフィンチャーはなぜこの映画を撮ったのか?本人は物語に惹かれたなどと言ってます。また特定のジャンルには囚われたくないとも言っています。

しかしどうしても今作だけは異色感が拭えませんね。人間の本質を描くという意味でデヴィッド・フィンチャーらしい作風ではありますし、いい映画でもありますが、「どうして撮ったのだろう?」という疑問が常に残ります。

それに納得せず毎回この映画を見て消化不良を起こすのです。悪い意味ではありませんが。

『ドラゴン・タトゥーの女』はバリバリのフィンチャー節映画でした。このあとどうなるか?その作品の後にまた平和な作品が出るかもしれません。それを見たときに何か答えに値するものが見えてくるかもしれませんね。その時に本当の答えが出るのかもしれない。



物語の終わり、逆に回る時計の終焉

さて、本レビューで最初に取り上げた時計の話をして閉じましょう。物語の最後、登場人物たちが順番に登場します。

川のほとりで暮らす人、

雷に打たれた人、


音楽の得意な人、


アーティスト、


泳ぐ人、


ボタン職人、


シェイクスピア好き、


母親、


ダンサー



彼らの笑顔を見て2時間50分に渡る長編映画を一度振り返ることになります。とてもとても感動的なシーンでした。そして感動的だったなと満足して終わるかと思いきや、最後の最後であの逆回りする時計が出てくるのです。

ニューオリンズの台風による洪水でしょうか?役目を終えて倉庫で逆回りをする時計に水が襲います。この時計も人間のようにあらゆる人と出逢い、あらゆる日々を経験してきました。しかし洪水により浸水していきます。そこで映画は終わりますが、きっとこの時計はこのあと水の影響で動きを止めたことでしょう。

時計の人生はここに幕を閉じるのです。しかし彼も幸せだったでしょう。


「はらわたが煮えくりかえる。

運命の女神を呪いたくなる。

でもお迎えが来たら行くしかない」


そう、お迎えがきたらいくしかないのです。それだからこそ人生は素晴らしいのです。



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