『バットマン・ビギンズ』冒頭30分で描かれたバットマンの定義をしっかりと押さえてみる/『ダークナイト』シリーズ徹底解説コラム 9 - Cinema A La Carte

『バットマン・ビギンズ』冒頭30分で描かれたバットマンの定義をしっかりと押さえてみる/『ダークナイト』シリーズ徹底解説コラム 9




今回は3作通してとても重要なバットマンの存在定義をまとめたいと思います。

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と言っても『バットマンビギンズ』の冒頭30分を展開していくだけです。
『バットマンビギンズ』をご覧になられた方は「そうだったなぁ」と思って頂けると幸いです。

まだ『バットマンビギンズ』をご覧になられていない方は今後の参考になれば幸いです。



『バットマンビギンズ』の冒頭30分を何度も見ると、クリストファー・ノーラン監督のバットマンの世界観をかなり楽しめるようになると思います。

クリストファー・ノーラン監督はこの『バットマンビギンズ』を製作する前は、一言で言えば頭の使う非大衆向け映画の名匠でしたので、今作のようなエンターテイメント作品を製作するにあたって普通には作らないだろうという期待がありました。まぁ期待通りでしたがw

3作品通しての徹底的な世界観はもちろんですが、この冒頭30分、深い人間ドラマを時間軸を入れ替えながら展開していきます。

映画の冒頭少年時代のブルースが井戸に落ちたと思ったらいきなり15年以上経過したであろう時期の刑務所から始まるんですよね。主人公のブルースウェインが捕まっています。でもなぜ捕まってるかわからない。

しかもアジアのどっか果ての刑務所。そこで謎の人物ヘンリードュッカートの助けを得てヒマラヤへと導かれます。この謎の展開が冒頭です。しかしその少年時代と刑務所服役の理由、ヒマラヤへのエピソードが徐々に接近していきます。

そして紆余曲折あった後ゴッサムへと戻ることとなったブルース。
このゴッサムへと戻る前まででバットマンの定義は一通り成されたことになります。


時系列を整理して書いてみます。

1:少年時代のブルースは井戸に落ちてコウモリに襲われトラウマとなります。

2:井戸へ落ちたブルースを助けたのは父親です。父親はブルースにある言葉を伝えます。「ブルース、なぜ人は落ちるのか?這い上がるためだ。」この言葉は執事のアルフレッドのいる場面で発せられたため、映画のクライマックスでバットマンがピンチになった際にアルフレッドが今度はブルースに、「人はなぜ落ちるのですか?這い上がる為です。見放しません。決して。」と言います。後半の「見放しません、決して。」、英語ではNeverの一言。冒頭30分の中に同じやりとりがあり、父親とのこのシーンとリンクすると泣いてしまう感動的なシーンの伏線となっています。

3:回復したブルースは両親とゴッサムの街へオペラを見に行きます。この時使った移動手段はモノレール。ブルースの父親はゴッサムシティー大企業ウェインカンパニーの会長でした。不景気で腐敗の進む街を救いたいということで安価な移動手段のモノレールを作ったのです。

4:オペラを鑑賞している際にコウモリを連想させるシーンが登場します。ここでブルースはコウモリに襲われたことを思い出し絶えられなくなり、オペラを出るように父親にお願いをします。母親も連れて3人でオペラを後にするも、オペラの会場を出た所で強盗に襲われてしまいます。結果的に父親も母親もブルースの目の前で射殺されてしまう悲劇が起きます。貧困層のために力を尽くしてきた父親が貧困層に撃たれて亡くなるといういたたまれないシーンなのです。

5:警察に一旦保護されたブルース。ここで落胆するブルースをなだめたのがゴードン警部、ここで初登場です。子供心にこの警官は腐敗する街の中でもきっとまっとうな警官なんだろうとブルースは思ったのでしょう。それが映画の後半、そして「ダークナイト」でゴードンと手を組むきっかけになっているはずです。

6:時は経ち、大学生となったブルース。日本語字幕では消されていますがプリンストン大学の中退が最終学歴になります。大学のあるプリンストンからゴッサムへとブルースは戻ってきますがブルースが戻ってきた理由は両親を殺したチルの公聴会に出席するため。アルフレッドも幼なじみのレイチェルもブルースに公聴会に出ないように説得するも、ブルースは両親のためにと出席をすることにします。ここでブルースはぐだぐだ文句を言うがアルフレッドは見放しません。ブルースの「見放さないのか。」に対してたった一言「Never(決して)」で反応。このアルフレッドのブルースを絶対に守る、両親から託された大切なブルースに最後まで仕えるという意思がバットマンが存在し続けられる理由ともなってきます。

7:ブルースが公聴会へ出席する本当の理由はチルを自らの手で殺すためでした。銃を装備し公聴会へ出席したブルース。撃ち殺そうとチルへ近づいていくも、何と他の人がチルを射殺してしまいました。ブルースはどこかすっきりしたようでした。死に際を見届け、レイチェルと車で公聴会を後にするブルース。ここでブルースは正義が下されたというも、レイチェルは反論します。「正義は秩序のため。復讐は自己満足のため。」この台詞もバットマンの定義に深く関わる台詞です。なぜならこの後バットマンになったのは街の平和のためだからです。秩序のために正義を行い、復讐決してしない。だからバットマンは絶対に人を殺さないのです。

8:街のマフィアのボス、ファルコー二に会うことにしたブルース。マフィアのボスにはどんなことを言っても通用しません。「お前はあくまでもブルースぼっちゃまだ。」と御曹司であることを馬鹿にされ殴られて見せを叩き出されたブルース。ここでブルースは決意します。今あるしがらみを脱却し、何にも縛られない自分として人生を切り開きたいと。そこで彼は世界を旅することにします。

9:ブルースの決意は固いもので、決して優雅な旅行などしませんでした。盗みをする身まで自らを落としたのです。そんな中盗みを警察にバレてしまい逮捕されます。そしてチベットの刑務所へ服役することに。ここで映画の冒頭の刑務所のシーンに繋がるわけです。

10:謎の男ヘンリードュッカートの力によってブルースは釈放されました。ヒマラヤの山奥にあるヘンリードュッカートのボス、ラーズ・アル・グールへ謁見するためにブルースは山奥を目指します。

11:ラーズ・アル・グールのアジトへ到着したブルースは、恐怖(コウモリのトラウマなど)を克服し、鍛え上げられる訓練を受けることに。ここで肉体的な強さを得るのです。

12:しかし肉体的な強さだけでなく、ここで彼が得たものは精神的な強さでした。ドュッカートはブルースに様々な言葉をかけます。「忍術は爆薬を使う。目眩ましだ。演出とトリックで敵には只者でないと映る。」これはその後バットマンそのものになります。「鍛錬は重要ではない、大切なのは意思だ。戦う意思だ。」
「ダークナイト」であり得ない狂気ジョーカーへ立ち向かう場との意思はこれに基づき、次回作「ダークナイト・ライジング」でベインに屈しないその精神もここに基づくことになるのでしょう。
「私には愛する妻がいた。しかし彼女が殺されて私は学んだ悪は倒さなければならないと。怒りは原動力となるしかし身の破滅にもなりかねない。大切なのは復讐だ。」
ここでブルースはレイチェルの言葉を思い出し、ドュッカートの全てが正しいとは思わなくなります。レイチェルの言葉とは「正義は秩序のため、復讐は自己満足のため」です。

13:訓練の最後に彼は処刑をすることを言い渡されます。盗みを働いた農民の処刑です。しかし彼は拒否します。このエピソードは「バットマンビギンズ」「ダークナイト」通して、バットマンが自らの手で絶対に人を殺さない哲学の根底になっています。

14:処刑を拒否し、ラーズ・アル・グール、ヘンリードュッカートと別れたブルースは、ゴッサムへと戻ることに。ゴッサムへ戻り、犯罪のない街を作りたいと彼はアルフレッドに言います。自らできることは何か、それを探す彼の旅がここからまた始まっていくのです。


ここまでが冒頭役30分の話です。


凄まじいドラマ性でストーリーとしても大好きな部分です。このシーンは言葉よりもやはり映像で観てほしいので、気になった方是非観てくださいね。

どうして彼がバットマンになったのか。
『ダークナイト』で瀬戸際まで追い込まれても、『ダークナイト・ライジング』で死にかけても"這い上がった"のは、全てこの過去のエピソードによるものなのです。

そこからの『バットマンビギンズ」』の後半1時間半は失礼ですが『ダークナイト』『ダークナイト・ライジング』を作るための1時間半です。もし冒頭の30分が存在しなかったら悪役がはっきりしない陳腐なヒーローものになってしまう危険性すらあります。

つまり、良くも悪くもこの1時間半だけ見ると割りとヒーロー映画の典型的な形の収まっているのです。もちろん冒頭30分が効いているのでそんなことないんですけどね。最初の30分を「バットマン出ないしつまらない」とぼーっと見てしまっていた方は後半もあまりよろしくは映らないでしょう。

なぜなら存在定義が明確でないため敵を殺さなかったり人間として弱さを見せるバットマンに満足が得られないためです。全ては冒頭30分あってこそなのです。是非しっかりチェックしてみてくださいね。


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