『ダークナイト』の脚本力/『ダークナイト』シリーズ徹底解説コラム 11 - Cinema A La Carte

『ダークナイト』の脚本力/『ダークナイト』シリーズ徹底解説コラム 11


今回は『ダークナイト』の脚本について。

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『ダークナイト』は本当にとんでもない傑作です。
とんでもない傑作というのは細かい話抜きにして"すごい映画"であるんだと思います。
要するに誰がどう見ても(ぼーっと見てても)凄いと思える映画。

それが『ダークナイト』でしょう。

しかし、そういう作品こそ深く見ることでより素晴らしく感じることができます。

必ず心得ておいてほしいのが『バットマンビギンズ』によって描かれたバットマンのしっかりとした存在定義です。

『バットマン・ビギンズ』の解説で書きましたが要約してこちらにも。

・ヒーローになりたいのではなく過去の悲しみからゴッサムの街を平和にしたい

・「正義は秩序のため、復讐は自己満足のため」、よって悪人だろうと人殺しはしない

・あくまでも人間。超能力はない。頼れるのは装備と己の肉体。

この3つが根底にあります。『バットマンビギンズ』も是非観てくださいね。


では『ダークナイト』について語りたいと思います。まずはなぜこんなにも傑作なのか?

何がこの映画をこんなにも傑作にしているのか。
最大の魅力は間違いなく脚本の完成度でしょう。

おそらく公式に発表されてる資料には記述はないと思いますが、
この『ダークナイト』の脚本、どれだけの期間をかけられたかご存知ですか?

クリストファー・ノーラン監督がジャパンプレミアで仰っていたので記憶してますが、何と10ヶ月だそうです。

10ヶ月間かけて脚本を仕上げたわけです。
もちろん期間が全てではありませんが、それだけかけたまさに命がけの脚本に仕上がっているのでさすがとしか言いようがありません。

例えとして邦画の『アンフェア the Answer』ですが、佐藤監督は、脚本の構成はサラッとできて書き上げるのに1ヶ月くらいでスムーズにいったとインタビューで答えています。良し悪しは置いといてそれくらいで書けるものは書けるということなのでしょう。

それが10ヶ月です。

10ヶ月かけてストーリーを構築したわけではありません。
本作はキリスト教の物語や哲学的な理念、善と悪そしてその間にあるもの、人の良心や苦悩など様々な要素を物語の中に含んでいます。

それらを説教臭く描くのではなくバットマンというアメリカンコミックの世界で徹底したクライムサスペンスアクションとして描いているのです。

どこまでも徹底的に、綿密に構成された最高レベルの脚本が『ダークナイト』を傑作にしているのです。


脚本の何が素晴らしいのか。
それは言わずもがなストーリー展開でしょう。
オープニング6分の銀行強盗シーンで本作の悪役ジョーカーを登場させ、観客を映画に一気に引きこみます。

そして映画の冒頭15分かからずに『バットマンビギンズ』の悪役で最後行方不明のまま終わったクレイン博士との決着を付けてしまう。これによってストーリー上で前作のしがらみがなくなります。まあライジングでまた出てくるけどw

そしてそこから本作の新たな主要人物であるハーヴィーデントを登場させ、物語の下地を整えます。そこからは毎度のクリストファー・ノーラン監督らしいリアリティある世界観が展開されます。

構図自体は『バットマンビギンズ』に比べかなりわかりやすいです。クリストファー・ノーラン監督の映画の中で最もわかりやすい構成でもあるでしょう。時間軸いじってないですし。次々と進むストーリーの中で明確な対立構図が見えてきます。


バットマン、デント、ゴードン、レイチェルら平和、正義を望む者たち

VS

ジョーカー / マフィア / 警察の汚職

です。


特にジョーカーが主役レベルの存在感を出しているので、実質ジョーカーという悪を根絶させるためのストーリーと言っても間違えではありません。もちろんこういった解説を書いている以上ジョーカーはあくまでもストーリーの一端に過ぎませんが、「ジョーカー凄かった」というレビューがたくさんある通りそこだけに注目してもある程度の満足感は得ることが出来るでしょう。

もっと魅力が沢山あるのでその辺は記事でお伝え出来ればと思っております。
ジョーカーがやることは卑劣なことばかりですが、一見お調子者の行き当たりばったりに見えて行動1つ1つをかなり綿密に計算してるんだろうなぁと思います。

バットマンもデントもゴードンもレイチェルもジョーカーを全く止められません。常にジョーカーは裏をかきます。マフィアさえもジョーカーを恐れジョーカーと手を組みます。汚職警官すらジョーカーの支援をします。

そうしないと自分たちの存在意義、存在価値がなくなってしまうからです。よって平和を望む正義の者たちはジョーカーに振り回されまくりです。その中で人々が次々へと死んでいきます。あまりに先が読めない物語、次から次へと展開していく物語で、各レビューでは「どんでん返しに次ぐどんでん返し」という記述も目立ちましたね。

どんでん返しという言葉の使用には賛否あるかもですが、実際のところ予想できないストーリー展開なのでどんでん返しのようなものではありますね。

「そうきたか!」

「次はこうきたか!」

「次はその手か!」

「そこまでやるか!!」

というような展開が続いて行きます。

それがその場凌ぎの観客へのサプライズではなく、次に展開されるストーリーのきっかけになっているのだから凄まじい脚本だなといつも思います。例えば1時間30分付近の護送車VSジョーカー軍団のチェイスシーン。

一見映画におけるアクションシーンとして娯楽的に入れこんでるように見えます。しかしこのチェイスの最後の結末はどうだったでしょうか?最後に驚くべき人物が護送車を運転していたことがわかりました。

そう、チェイスシーンでどこまでも負けずに抵抗する護送車。そこにバットマンも登場しジョーカーを仕留めようとします。そこからデントは優雅に警察の車で帰還。その警察の車の運転手の顔をチェックしておきましょう。


そう、これも伏線といいますか次のシーンへのきっかけになっているのです。どこまでも徹底されているのです。見れば見るほどこういった細かい設定に気づき、どの映画でも存在する「ツッコミどころがある」的なレビューが意味を成さないことがわかるのです。

私も映画が好きなので映画のツッコミたまにしますが本作については偉そうにツッコミをネットに書くと実はそれその当事者がポイントを見落としてただけでツッコミする要素がなかったなんてこと多くあります。恐ろしいクリストファー・ノーラン脚本(笑)

もちろん少しはツッコミあると思いますけどね。その辺りはご愛嬌。

他の映画の脚本に比べればどこまでもどこまでも深い設定が成されているのです。それだけ凄まじいのに、そこに娯楽性も兼ね備えており、プラスして『バットマンビギンズ』で描かれたバットマンの存在定義もしっかりと守られています。本当に完璧な脚本構成なわけです。

特に終盤の展開には驚愕しました。
少しネタバレをしますが、これを知っても傑作ですので言わせて下さい。

本作は普通のアメリカンコミックやヒーロー映画ではタブーとされていることを中盤にやりました。そう、ヒロインであるレイチェルが爆死します。1作目から活躍してきた人物、しかも紅一点だった女性の主要人物を吹き飛ばしたのです。

誰がこの展開を予想したでしょうか。

よくありがちな実は生きてました的なオチもありません。救いようがないことを簡単にやってしまったのです。しかも終盤ではなく中盤で。

また、実際にどう殺されたかは書きませんが、ジョーカーは以下の人物も殺しました。ゴードン、ハーヴィーデント、市長、判事、そしてバットマン。この5人の殺害にはトリックがあるので実際当事者5人が死んだわけではないですが、レイチェル含め主要人物を容赦なく次から次へと殺していってます。

よく考えてください。この『ダークナイト』はシリーズ2作目です。最終章でもないのに次から次へと容赦無い展開が続いていくのです。あまりに痛々しい展開ですが、この容赦無い世界観こそジョーカーを体現しており、隙のない半端無い悪役、映画史に残る悪役と言われる所以でしょう。

この展開を作り上げたクリストファー・ノーランはもう天才としか。そしてストーリー終盤でジョーカーは主要人物だけでなく、市民をも試します。フェリー爆破のシーンですね。

囚人の乗ったフェリーと市民の乗ったフェリーに爆弾を仕掛け、お互いの船に起爆スイッチを入れる。先に押したほうが吹っ飛ぶという「ゲーム」です。ジョーカー的にはゲームなのです。あまちに卑劣ですが。。。

そんな究極の選択のシーンは劇的な展開でした。ある意味この映画で数少ない光かもしれません。これは必見です。ジョーカーとの戦いが終盤に差し掛かった時、もう一人の殺人鬼が登場します。トゥーフェイスです。言ってしまいますが、これはハーヴィーデントです。

ゴッサムの光の騎士、正義の象徴であったデントは悪へと転落します。これはレイチェルの死亡の悲しさ、怪我による思考の麻痺、そしてジョーカーの洗脳のせいです。よくいきなりダークサイドに落ちるなんてゆるいと指摘されてますが顔の傷の痛みを想像してみましょう。

そうなるだろうなとすぐ納得できました。あれは激痛レベルを超越してますよね…頭おかしくなって当然です。トゥーフェイスは次から次へと人を殺していきます。ジョーカーで終わらずもう一山持ってくるこのストーリー展開、、、凄まじいとしか・・・

そして最後の決着が一応付きますが、「ダークナイト」のラストは一応「ジョーカーの勝ち」になります。まさかですよね・・・もちろん完全勝利ではありませんが、ゴードンが台詞発してますね。「ジョーカーの勝ちだ・・・」と。

この時点で映画はあと2分というクライマックスなわけですが、ここからの2分は映画史に残る、いや、映画史上最高のシーンでしょう。バットマンのとんでもない重い決断のシーンです。一瞬でジョーカーの勝ちはなくなります。凄まじい凄まじい・・・

そして映画の最後は『バットマンビギンズ』と同じくゴードンの台詞で終わります。その最後の台詞が本作のタイトルが『ダークナイト』である理由が語られる台詞です。

なぜバットマンではなくダークナイトなのか。バットマンはヒーローではなく街の守護者なのです。そう彼は暗黒の騎士なのです。暗黒の騎士を英語でいうと『A Dark Kngiht』なのです。そして映画はおしまい。「バットマンビギンズ」と同様に最後に初めてタイトルが初めて出ます。

THE DARK KNIGHT

と。

鳥肌、そしてジャパン・プレミアでは拍手喝采になった瞬間です。

凄まじい展開の連続であった『ダークナイト』という映画は、凄まじい名シーンで幕を閉じたのでした。クライマックスラスト2分は「ここがクライマックスなんだろうなぁ」と何となくわかります。しかし私はここでこう思いました。

「お前は悪くない!ここで終わるな!悪くないんだから!」と。

2時間半の映画ですが、本当に終わってほしくなかったですね。しかしここで映画はおしまい。ジョーカーに勝ってはいませんが、決着は付いてます。まさに完璧のラストです。

今でも何度も見返してしまうシーンです。そんなラストの感動は展開されてきたストーリーによるものです。なので脚本がやはり素晴らしいと思うのです。何度も何度も見ていると細かい部分に気づくので、それでまた「ダークナイトの脚本は本当に凄まじい」と思うのです。

それが本作の最大の魅力だと思います。

バットマンの存在定義の描写は『バットマンビギンズ』で済んでるので、ビギンズほど哲学的名言はありません。だからこそストーリー面が徹底されており、結果として凄まじい展開が完成したのでしょう。

次回は脚本をより掘り下げてジョーカーについて徹底解説したいと思います。

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ノーラン版バットマンシリーズ(ダークナイト3部作)徹底解説もくじ

徹底解説コラムをリニューアルします!


徹底解説コラム2:映画に詳しくなかった私が『バットマン・ビギンズ』で受けた衝撃


徹底解説コラム3:『ダークナイト』初見の感想。ジャパン・プレミア会場は拍手喝采の熱狂になった!!


徹底解説コラム4:『ダークナイト・ライジング』ジャパン・プレミアで泣き崩れた思い出


徹底解説コラム5:シリーズで最も大切な『バットマン・ビギンズ』の概要 


徹底解説コラム 6:シリーズ一の衝撃作『ダークナイト』の概要


徹底解説コラム 7:伝説の壮絶なる終わり『ダークナイト・ライジング』の概要


徹底解説コラム 8:3部作お勧めの見る順番&そしてゴッサム・シティの重要性


徹底解説コラム 9:『バットマン・ビギンズ』冒頭30分で描かれたバットマンの定義をしっかりと押さえてみる


徹底解説コラム 10:『バットマン・ビギンズ』中盤〜後半徹底解説!


徹底解説コラム 11:『ダークナイト』の脚本力


徹底解説コラム 12:『ダークナイト』のジョーカー徹底分析!


徹底解説コラム 13:ゴードン(警察)とデント(検察)の思惑の違いが生んだ悲劇


徹底解説コラム 14:『ダークナイト』におけるバットマンの存在意義を考えてみる


徹底解説コラム 15:『ダークナイト』のあらゆる魅力をまとめてみる


徹底解説コラム16:『ダークナイト・ライジング』をより楽しむために!ゴッサム・シティの地図を把握しておこう!


徹底解説コラム17:『ダークナイト・ライジング』、感動の初見の感想をもう一度アップ 


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