泣かせようとしないからこそ感動する『君と歩く世界』【映画紹介/2013年公開作】[ネタバレなし] - Cinema A La Carte

泣かせようとしないからこそ感動する『君と歩く世界』【映画紹介/2013年公開作】[ネタバレなし]


君と歩く世界

基本情報
邦題
『君と歩く世界』

原題
"RUST AND BONE"

監督
ジャック・オディアール

出演
マリオン・コティヤール、マティアス・スーナールツ、アルマン・ヴェルデュール、セリーヌ・サレット

公式サイト
http://www.kimito-aruku-sekai.com/sub.html

ストーリー
南仏の観光施設でシャチの調教師をしているステファニー(マリオン・コティヤール)は、ショーの最中に事故に遭い、両脚の膝から下を失ってしまう。失意の彼女を支えたのは、不器用なシングルファーザーのアリ(マティアス・スーナールツ)だった。粗野だが哀れみの目を向けずフランクに接してくる彼と交流を重ねるうちに、ステファニーは次第に生きる希望を取り戻していく。(シネマトゥデイより)

予告編



感想(一気に語り下ろし)
マリオン・コティヤールの舞台挨拶&試写会にて一足お先に鑑賞してきました。
4月6日より公開の『君と歩く世界』のレビューになります。

あれこれ書きたいことたくさんあるわけですが、まず一言で簡潔に表現しましょう。
今年観た映画のベストと言える超傑作でございました。
余韻が凄まじい…公開日にまた観に行くのが待ち遠しくて仕方ないです。

物語を簡潔に説明しますと、
両足を失ったシャチ調教師の女性ステファニーとシングルファーザーのアリの
風変わりなラブストーリー、というのが一応の紹介になると思います。





日本だとマリオン・コティヤール単独主演のような宣伝をされていますが、ダブル主演です。
二つのエピソードが別々に描かれ、やがて交わり、クライマックスへと進んでいきます。
ラブストーリーとは書きましたが型に全くハマっていません。

両足を失う事故に遭い、失意のどん底に落ちたステファニー。
シングルファーザーで落ちぶれのアリ。
二人とも"いい人間"ではありません。

しかし、そんな二人は自然と交わり、生きる希望をお互いに見い出していきます。
その過程が何と言いますか…とてもリアルなのです。
人間の欲望を包み隠さず描いていきます。

隠す必要もないですかね、要するにセックスです。
両足を失ったステファニーは女性としての自信も無くします。
しかしそんなステファニーをアリはセックスに誘います。

これは恋人としてではないです。
完全なる遊び相手としてです。
しかしそれがステファニーの女性としての自信になり、生きる希望を再び見出すことになるのです。

その後心の繋がりをお互い求めるようになり恋人のようになるも、まあなかなかうまくいかず…
ステファニーの思いが切なく感じ、後半のアリのある行動に私は
"いやいや、それはいくらなんでもひどいだろ…"と思ったりもしました。

が、孤独な男はある事をきっかけに悟るのです。
自分は独りでは生きていけないと。
息子もいます、心を支えてくれる息子以外の誰かも必要なのです。

その悟った時、ステファニーはどう対応したか。
それは是非劇場で目撃して頂きたいです。




"生きる"ということや、ラブストーリー、親子の物語、
映画のストーリーは絶え間なく動いていきラストを迎えます。
語りすぎないラストがまた素晴らしかったです。

映画を見終わった時、私は涙は流しませんでした。
しかし、映画が終わり劇場を出て帰路につきながら、映画の余韻が私の中に広がっていたのです。
涙を流すとは違う、言葉で表せない感動が私を支配し、そして今もその余韻が続いています。

何か生きる勇気を映画から貰ったような気がしました。
絶望から這い上がって歩き出した彼らの姿、それは綺麗事では一切無く苦しみや痛みがそこにはありました。
しかし、それがあるからこそ生きていることを実感できるのかもしれません。

もちろん、苦しみや痛みだけでは辛すぎる人生。
そこに自らの勇気や人から受ける愛や優しさ、自然の魅力など、
そういった様々なものや感情があってこと"生きる"素晴らしさを実感できるんでしょうね。

そんなことをこの映画に改めて認識させられた次第です。





映画のタイトル、原題は"RUST AND BONE"です。
これは「錆びと骨」という意味。
ボクシング用語で、パンチを受けて歯で唇が切れた時の血の味のことみたいです。

ラブストーリーなのに?
と思うかもしれませんが、映画を見れば納得です。
それはボクシングの話だけでなく、人生という意味でも「錆びと骨」を描いていたなと思いました。

フランス映画ですが、ロマンティックやアーティスティックな演出などありません。
セックスシーンすら荒々しさを感じます。
しかしそれが"生きる"ということなんですよね。綺麗事だけではないのが人生。

当たり前だけれども忘れていたそのことを思い出させてくれました。


ジャック・オディアール監督の素晴らしい演出。
水や光の美しい映像表現から感じる生命力。
時に切なく、時に躍動的に鳴る音楽。

そしてマリオン・コティヤールを始めとしたキャストの素晴らしい演技。

感動させようとせず、ありのままを描いたからこそ感じた感動と余韻。


秀逸。


傑作です。