"真実と虚構"、真の人間ドラマ『フライト』の重厚な魅力【映画紹介/2013年公開作】[ネタバレ解説あり] - Cinema A La Carte

"真実と虚構"、真の人間ドラマ『フライト』の重厚な魅力【映画紹介/2013年公開作】[ネタバレ解説あり]


基本情報
作品情報
日本語タイトル
『フライト』

原題
"FLIGHT"

監督
ロバート・ゼメキス

出演
デンゼル・ワシントン、ドン・チードル、ケリー・ライリー、ジョン・グッドマン

公式サイト

ストーリー
ベテランのウィトカー機長(デンゼル・ワシントン)は、いつものようにフロリダ州オーランド発アトランタ行きの旅客機に搭乗。多少睡眠不足の状態でも一流の操縦テクニックを持つ彼の腕は確かで、その日もひどい乱気流を難なく乗り越えた。機長は機体が安定すると副操縦士に操縦を任せて睡眠を取るが、その後突然機体が急降下を始め……。(シネマトゥデイより)

予告編



感想(一気に語り下ろし)
『フォレスト・ガンプ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のロバート・ゼメキス監督、12年ぶりの実写映画です。

ジャパンプレミア試写会にて鑑賞してきました。
ずっしりくるラストを備えた素晴らしい映画!といったところでしょう。
秀作です!

話の大半を占める"あること"がネタバレになりそうなので文字色反転して書いていきたいと思います。
本作はサスペンスではなく、1人の男が自分とは何かを悟るまでの物語です。
アルコール依存症についての話ではありますが、本当の自分を認める話という点で誰もが自らに当てはめることができるのではないでしょうか。

映画は冒頭、フライト前に主人公のウィトカーが酒とドラックをやるところからスタートします。
あまりにダメ人間な描写ですが、冷静に考えてみればアルコール依存症だとすぐわかります。
魔が差したとかではないのです。依存症という病気であることが冒頭示されるのです。

そしてフライトへ。しかしここで飛行機はトラブルに陥り急降下し始めます。
これはウィトカー機長のせいではなく整備ミス等機体トラブルが原因だと思います。
ウィトカー機長は機転を効かせ、背面飛行を行い、最後機体を不時着させるのです。





この機体トラブルから不時着までの描写がお見事!
私たちも乗客になっているがごとく"体験"をさせてくれます。
この映画、飛行機乗ってる時は観たくないですね…それくらいパニック描写が見事でした。

ここまでが映画の宣伝でよく成されている情報ですが、これは映画の冒頭1/3にも過ぎません。
映画は不時着後のドラマがあくまでもメインの話なのです。
不時着後、乗務員は血液検査をされ、当然ウィトカー機長からアルコールが検出されます。

それが直接の原因だろうがなかろうが、当然これは大問題です。
それが故に弁護士がこの検査はミスであるという意義を立て報告書を潰しにかかります。

機長が自らが原因と思われたくない。
航空会社は機体メーカーの責任にしたい。
機体メーカーは航空会社の整備ミスの責任にしたい。
様々な思惑が働いていくのです。
サスペンスとして映画は進んでいきます。

ウィトカー機長は事故にショックを受け一度酒絶ちをしますが、
依存症故に、もう一度酒を手にした時、より依存症は悪化していくのでした。
事故と関係ないドラッグ依存症の女性ニコールとウィトカー機長を恋愛関係に持っていくことで映画は依存症を客観的視点で我々に提示するのです。

弁護士はウィトカー機長を無罪にすべく完璧な仕事をします。
ウィトカー機長のアルコール依存症も弁護士は把握します。
そして酒のない環境へ公聴会の日まで彼を置きます。

ここから映画はクライマックスへ進みます。
クライマックス約30分。これに関しては何も書きません。
みなさんが目撃すべきです。


クライマックス30分。
ストーリー云々は置いていおきまして、ウィトカー機長は本当の自分と向き合おうとします。
向き合えたか向き合えないかは言及しません。

真実と虚構、その間に置かれた自らを今後どの方向へ導くかが描かれます。
これは一人のアルコール依存症の男の話ですが、
"真実と虚構の間からの未来の選択"というのは我々人間誰しもが直面するものでもあり、国家や組織もその間で常にもがいているのが現実ではないでしょうか。
そう、だからこそアルコール依存症なんて他人事であっても本作は他人事ではないのです。


ラストは切なさを持って終わります。
しかしそこには救いが存在しました。
最後の台詞にウィトカーは笑顔を見せました。
そう、最後の台詞に対して明確な答えを見つけたのです。
最後の台詞は私たち観客への問いかけでもあります。
嘘をついたことのない人間なんてそうはいません。
最後の台詞、自らの心へ問いかけることで映画は余韻を与えてくれます。


切ないクライマックス、これぞロバート・ゼメキス監督です。
彼が約10年挑戦してきたCGアニメーションは私は虜にはなりませんでした。
彼はやはり実写のこういった重厚で切なさ・苦さを残してくれる映画でこそ味が出ると思いました。

デンゼル・ワシントンはこの役柄を見事に体現しました。
アカデミー賞主演男優賞のノミネートは納得といったところですね。
特にクライマックス、見事な演技でした。


それとジョン・グッドマン!!彼はホントいい役者です。
『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』⇒『アーティスト』⇒『アルゴ』⇒『フライト』と立て続けに話題作に出演している俳優さんですが、今作は完全にムードメーカーのお笑い担当w
素敵でした!

オサマ・ビンラディン暗殺を描いた『ゼロ・ダーク・サーティ』の主人公は最後抜け殻になります。
映画の最後の台詞に答えられず絶望感が最後に残りました。

本作『フライト』の主人公は最後真の自分になります。
だからこそ映画最後の台詞に笑顔を見せました。
答えは言いませんでしたが答えがあるのはあの笑顔から明らかでした。

どちらも最後に残るのは"苦さ"。 
その"苦さ"は映画に帰結せず私たちへの問いかけでもある点で共通します。
 どちらも最後の台詞は私たちへの問いかけであると認識することで、映画の深さを感じることができるのです。

『フライト』というタイトルを被せた一人のアルコール依存症男の話です。
決して飛行機の話がメインではない点、期待してたものと違うと思う方もいらっしゃるでしょう。

しかし、今回記事に書いたように、
"真実と虚構の間"という広義で物語を捉えることで私たちの物語でもあるという点を認識すれば、価値ある2時間18分となるのではと私は思っています。