他人事物語ではない?秀逸な構成と演出で魅せる『愛、アムール』の不思議な魅力【映画紹介/2013年公開作】[ネタバレなし] - Cinema A La Carte

他人事物語ではない?秀逸な構成と演出で魅せる『愛、アムール』の不思議な魅力【映画紹介/2013年公開作】[ネタバレなし]



基本情報

日本語タイトル
『愛、アムール』

原題
"Amour"

監督
ミヒャエル・ハネケ

出演
ジャン=ルイ・トランティニャンジョルジュ、エマニュエル・リバ、イザベル・ユペールエヴァ、アレクサンドル・タローアレクサンドル

公式サイト
http://ai-movie.jp/

ストーリー
パリ在住の80代の夫婦、ジョルジュ(ジャン=ルイ・トランティニャン)とアンヌ(エマニュエル・リヴァ)。共に音楽教師で、娘はミュージシャンとして活躍と、充実した日々を送っていた。ある日、教え子が開くコンサートに出向いた2人だが、そこでアンヌが病で倒れてしまう。病院に緊急搬送され、かろうじて死だけは免れたものの、半身まひという重い後遺症が残ってしまう。家に帰りたいというアンヌの強い願いから、自宅で彼女の介護を始めるジョルジュ。しかし、少しずつアンヌの症状は悪化していき、ついに死を選びたいと考えるようになり……。(シネマトゥデイより)

予告編




感想(一気に語り下ろし)
第85回アカデミー賞外国語映画賞を受賞した本作。
これは凄いです。とんでもなく傑作です。
ただ癖はありますし、幸せな気持ちにもなれません。しかし繰り返します、傑作です。

ミヒャエル・ハネケ監督はとても変わった映画人です。
そのフィルモグラフィーがああだこうだ語り始めると1万字超えるのでそれはやめますw
一言で言えば"人を不快にする演出をしたり、映画の結末解釈を観客に委ねる"監督です。

なので映画を見てすっきりすることもありませんし、
映画を見ながら途中で不快感を感じることもあるのです。
本作は一見ハネケらしからぬ題材のように見えますが、題材がそうなだけで演出はしっかりハネケでした。

いくつかのレビューサイトを見ましたがほとんどの方が大絶賛しています。
しかし批判レビューを見ているとやはり不快に感じたとの意見がありました。
これは故意的なわけですが、真に受けて映画を楽しみにきてる方にはやはり批判対象になってしまうんですよね。

不快感を感じる=映画にのめり込んでるということでもあります。
その辺さすがハネケだなとも改めて思います。



本作は元音楽家の老夫婦の物語です。
妻を介護する夫と、夫に介護される妻。
その二人の物語が静かに静かに描かれていきます。

日本では現実に多数存在している老老介護の物語ということです。
この設定だけ見てみると、正直言って"500回見た話"です。
新鮮味はないですし、高齢社会の日本では「何をいまさら」とも思うでしょう。

しかし、この映画は凄いです。
感じるものが格段に違います。
息苦しさや不安感、喪失感といったものが私たちの心に積み重なっていきます。

映画を鑑賞するというよりも、二人の物語を覗き見した感覚を覚えました。
体験したというか、見てしまったというか…
物語の構成が巧みで、映画としても面白さを感じ、意外と不快感はありませんでした。
爽快感ももちろんないですけどね。


本作の結末は物哀しいものです。
老人である以上、死はすぐそこにあります。
死をもって物語は終焉を迎えます。しかし、どのようにそれを迎えたか?これは映画を見て目撃してほしいです。

悲しく、少しばかり驚く結末ですが、現実味はありますね。
そして、その悲しい結末と対照的な理想化されたシーン(空想・妄想)も描くことで一層映画に深みが増します。

これはジョー・ライト監督の『つぐない』のラストシーンと似た感覚を抱きました。
実際あったことと異なる理想化された映像を我々に提示することで、
私たちが抱く切なさや物哀しさを増幅させ、映画に深みを与えるのです。



物語は驚くほど静かに進みます。
音楽は劇中のピアノを弾く音しかかかりません。
そして故意的に長回しを使うことで小さなストレスを私たちの心に植え付けます。

そのストレスは映画らしくないもの。
つまり言ってしまえば現実的に思える演出をしているのです。
これを"間延び"、"退屈"と思う人もいて当然、しかしこれは狙った演出なのです。

そういった意味で私たちはこの映画を耐えながら見ることになります。
しかしその"耐える"ことを私はしてよかったなと思いました。
なぜなら私たちも生き続ければ老人になるのです。
全く同じでないにせよ、このようなことが起こりえるのかもしれないということを
リアルな演出をもって見ることができたのですから。



ハネケの映画らしくラストは全てを描きません。
要するに介護をしていた夫に結末が見えません。
しかしどうなったかの解釈はそんなに難しくないでしょう。
複数の解釈を目にしましたが、私はスタンダードな解釈をしていると思います。

映画には鳩が出てきます。
その鳩の扱い方と心情は当然マッチしています。
鳩を逃がす、鳩を包み込む。それがは心でもあるわけです。

そんな静かなる老老介護の物語のタイトルが『愛、アムール』。
この物語に"愛"と付けたこと、その究極の愛こそ最後の結末なんでしょうね。

娯楽性はゼロ、爽快度はゼロ、感動というより唖然。
そんな本作ですが、ハネケの演出が凄まじく映画体験としてとんでもない時間でした。
この感覚は不思議と嫌ではありません。静かな演出なのに圧倒されました。

全ての人に勧められる映画ではないです。
しかし改めて言います。

とんでもない傑作です。