『ゼロ・ダーク・サーティ』感想、完璧な映画!ビンラディン暗殺までを描き最後に残るのは空虚…【映画紹介/2013年公開作】[ネタバレ解説あり] - Cinema A La Carte

『ゼロ・ダーク・サーティ』感想、完璧な映画!ビンラディン暗殺までを描き最後に残るのは空虚…【映画紹介/2013年公開作】[ネタバレ解説あり]



『ゼロ・ダーク・サーティ』基本情報

日本語タイトル
=ゼロ・ダーク・サーティ

原題
=ZERO DARK THIRTY

監督
=キャスリン・ビグロー

出演
=ジェシカ・チャステイン
=ジェイソン・クラーク
=ジョエル・エドガートン
=ジェニファー・イーリー
=マーク・ストロング

公式サイト
http://zdt.gaga.ne.jp/

ストーリー
ビンラディンの行方を追うものの、的確な情報を得られずにいる捜索チーム。そこへ、人並み外れた情報収集力と分析力を誇るCIAアナリストのマヤが加わることに。しかし、巨額の予算を投入した捜査は一向に進展せず、世界各国で新たな血が次々と流されていく。そんな中、同僚の一人が自爆テロの犠牲となって命を落としてしまう。それを機に、マヤの中でビンラディン捕獲という職務が狂気じみた執心へと変貌。ついに、彼が身を隠している場所を特定することに成功するが……。

予告編
http://www.youtube.com/watch?v=wdMkSTp0rjI



感想「完璧」


オサマ・ビンラディン暗殺までを描いた本作『ゼロ・ダーク・サーティ』、この映画は完全に好み真っ二つ分かれる映画だと思います。しかしこの映画、完成度として完璧以外の何ものでもありません。

震えるほど完璧な脚本、完璧な演出、完璧な演技がこの映画で堪能できます。しかし、この映画はあまりにもシリアスな映画です。描かれている事の事実性を巡って大論争にもなっています。しかし映画として完璧なのです。



みなさんにとって9.11とは何でしょうか?
遠いアメリカで起きた他人事のテロ事件でしょうか?


みなさんにオサマ・ビンラディンとは何でしょうか?
日本と関係ない遠い中東の地のアルカイダのリーダーでしょうか?


みなさんにとってテロとは何でしょうか?
アメリカや中東で起きている他人事でしょうか?


9.11では24名の日本人が亡くなりました。2005年にはロンドンでもテロが起きました。
この『ゼロ・ダーク・サーティ』で描かれる世界は他人事ではなく私達が生きている世界なのです。

CIAの女性職員マヤを中心にオサマ・ビンラディンの居場所を突き止めていく映画ですが、
暗殺の日までに起きた数々の出来事が映画内には詰め込まれています。9.11の際の緊迫した肉声テープで始まり、拷問描写、テロ描写、CIAの緊迫と焦り、徐々に徐々にビンラディンの居所へと迫っていく描写、そして突入作戦の描写、全てが終わった後の主人公の描写。

あらゆる歴史を私達は画面を通して目撃します。数十年前、数百年前にあった歴史ではなく、ついこないだあった歴史をです。それが"完璧な完成度"で描かれていくわけですから圧倒されるしかありませんでした。

入念なリサーチを元にしたマーク・ボール執筆の脚本の完成度、キャスリン・ビグロー監督の魂が入った熱くもわかりやすい演出、そして鳥肌が立つほど気迫溢れるジェシカ・チャステインの熱演、完璧な完成度で目撃する歴史、言葉にできない衝撃を味わいました。

この映画で最も大切なシーンは暗殺作戦のシーンではなく、ラストシーンです。最後、パイロットが主人公マヤへ「どこへ行くんだい?」と訪ねます。マヤは何も答えられません。ただ静かに涙を流します。このシーンがこの映画の全てです。

主人公マヤはビンラディンを暗殺することをほとんど生きる目的として執念で成し遂げました。そんな彼女はそれが達成されても残るものは喜びではなく空虚だったのでしょう。
それが涙となり、返せない言葉となったのです。

この「どこへ行く」は私達への問いかけであり、世界への問いかけでもあるのです。ビンラディンはいなくなった。ではこれからどこへ向かうのか?ビンラディンはいなくなった。けれど世界は平和にならない。どうするか?

その答えは私達も明確に示すことはできないのです。そういった物凄く重いメッセージを残して映画は幕を閉じます。終わった後唖然とするしかないのです。

ビンラディン暗殺を描いているためアメリカのプロパガンダ映画ではと言う方もいます。
そんなことありません。暗殺作戦は見事に達成されましたが映画を見て残るのは空虚だけです。その重い重いメッセージを受け取ることが本作の存在意義。プロパガンダではないのです。

非常に重いメッセージを備えたヘヴィー級の映画です。しかし繰り返している通り完璧な映画です。是非みなさんにも歴史を目撃してほしいと思います。


拷問シーンについて

拷問シーンですが、事実性を巡って大論争になっています。ずばり、拷問など実際は無かったのではという説が出てきています。それにより映画のバッシングまで起きる事態です。

どうやらリサーチをして、その後撮影している最中に拷問が無かったと情報が改められたようです。しかし最初のリサーチでなぜ拷問の話が出たのでしょう?そう考えるとあったかなかったかは当事者のみぞ知る、なのでしょうね。


ジェシカ・チャステインの演技

主人公マヤを演じたジェシカ・チャステイン。本作でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされ、先日のゴールデングローブ賞では主演女優賞(ドラマ部門)を受賞しています。

当然の結果と言える大熱演でした。前半からビンラディンを探し出すために全力を尽くすマヤ、ある出来事をきっかけにその全力は執念へと進化していきます。

ビンラディンを暗殺することだけを目的に生きているようなヒステリーさも垣間見え、
その鬼気迫る演技には圧倒されました。特に上司に「テロの阻止のためにはビンラディンを捕まえるか殺すかするんだ!」と突っかかるシーンの緊迫感は素晴らしかったです。

このシーンの台詞も見事な言い回し。
書き起こし貼っておきますね。


You just want me to nail some low level Mullah-crack-a-dulla so that you can check that box on your resume that says while you were in Pakistan you got a real terrorist. 

But the truth is you don't understand Pakistan, and you don't know Al Qaeda. 


Either give me the team I need to follow this lead, or the other thing you're gonna have on your resume is being the first Station Chief to be called before a congressional committee for subverting the efforts to capture or kill bin Laden.



残る空虚さ、しかし映画の完成度はリピートを誘う

前述の通り映画の最後のメッセージにガツンとやられます。「どうしたらいいのだろう」という空虚さに支配されます。唖然とするしかありません。しかし、映画の完成度は完璧です。メッセージの重さにより"楽しむ"ことのできない映画ですが、その完成度により少し時間を置くと"また観たい"と思ってしまうのです。

何度観てもきっと最後のメッセージの答えは出ず、この世界の平和と紛争についてもやもやが残るだけでしょう。むしろそのもやもやは見れば見るほど増えるでしょう。

しかし完璧な映画であるが故、それでもまた劇場へ足を運ぼうとしている自分がいます。そんな不思議な気持ちになっていること、それこそが本作が傑作であるということを表しているのです。